ブッシュ大統領の就任演説に、「米国内外から驚きと疑問の声」が上がっている、というのは本当か

毎日新聞の以下の記事ですが、
ブッシュ米大統領:2期目就任演説、国内外で波紋 「圧政終結」本気?

 ◇「圧政終結」本気?−−パパ弁明「軍事攻撃ない」

 【ワシントン中島哲夫】世界の「圧政」終結を目標に掲げたブッシュ米大統領の20日の就任演説に米国内外から驚きと疑問の声が上がり、ホワイトハウスは釈明に追われている。22日はブッシュ元大統領まで息子のために弁解した。2期目のスタートからつまずいた形だが、実はそれも作戦ではないかという見方がある。

 この演説に対し米国で上がっている疑問は、(1)「世界の圧政に終止符を打つ」というのは机上の空論(2)「あらゆる国の民主化運動を支援するのが米国の政策」と宣言したことは、内政干渉と戦争につながる(3)ロシア、中国、エジプト、サウジアラビアパキスタンなど米外交の重点国にも圧政があるが、どう対処するのか−−など。

 演説直後からこうした批判が噴出したため、ホワイトハウス高官は21日、米主要紙記者らを集めて「真意」を説明した。ワシントン・ポスト紙などによると「圧政終結は長期目標で、短期間での達成を想定していない」「政策変更はなく、軍事介入を含めて介入政策はとらない」などの釈明があった。また別の高官は、就任演説だから理想論を述べたのであり、2月初めの一般教書演説はもっと実際的な政策演説になると語った。

 この日ホワイトハウスを非公式に訪ねた父親のブッシュ元大統領も、記者団に「新たな軍事攻撃を意味するものではない」などと、強硬策への転換ではないということを断定的に語った。

 しかし、本当に予期せぬ誤解や過剰反応を招いたとしたら、現実感覚を欠いた演説だったことになるが、それほど単純な構図とは考えにくい。一部外交筋の間では、特定の「圧政」国家についてはやはり2期目の任期内に「終止符を打つ」計画ではないかという見方が根強い。

毎日新聞 2005年1月24日 東京朝刊

どうやらこの記事がリベラルなかたがた(ブッシュ嫌いな人)の、ブッシュ批判の元テキストになっている様子。よくご覧になればお分かりの通り、

1・「米国で上がっている疑問」は、誰がどのように疑問を持っているか紹介していない
2・米国外での「驚きと疑問の声」の具体例はまったく紹介されていない(←ここ重要)
3・「ホワイトハウス高官」の名前を挙げていない(少し調べたいです)
4・「ワシントン・ポスト紙など」の「など」の部分が不明(ワシントン・ポスト紙の記事も少し調べたいです)
5・「別の高官」の実名も不明

などなど、かなりフカシの部分が多いような記事なので、「やっぱブッシュの就任演説、評判悪いじゃん!」みたいな判断をするには、いささか材料不足という感じです。

↓日本国内では、こんな記事もありましたが、
小泉首相:ブッシュ演説に「理解」 記者団に語る毎日新聞

 小泉純一郎首相は21日、ブッシュ米大統領が2期目の就任演説で民主主義と自由を世界に拡大するため武力行使も排除しない方針を明言したことについて「米国の立場ですから理解しております」と記者団に語った。

毎日新聞 2005年1月21日 20時39分

ブッシュ大統領の演説の、「間違った要旨」(どのように間違っているかは俺のほうでは言及ずみ→「ブッシュ大統領就任演説」から、メディアリテラシーを考えてみる。)を元に「ブッシュは○○と言っていますが」というような質問をしている、ひどい誘導質問。俺だったら「そのような『明言』は確認されていない」もしくは「そのように言ったという事実は存在しない」と答えるようなものでした。

↓たとえばこの記事などは、
米大統領演説、外交政策転換を意味したのではない=米高官(ロイター)

 [ワシントン 22日 ロイター] 、自由を拡大し、圧制者に抑圧される人々に味方する方針を表明したが、これは外交政策の転換を示したのではなく、長期目標を詳しく説明することを意図していたという。
 米高官は22日、匿名を条件に、「演説は米政府の政策に基づいた内容。米政府が達成に向けて鋭意努力するべき長期目標を、非常に明確に提示したものだ」と述べた。
 高官はまた、全ての国家に自由を容認する用意があるわけではないとの認識を示し、目標推進にあたっては寡黙の交渉が必要な場合もあるだろう、との見解を示した。
 2期目の就任演説をめぐっては、大統領が自身の自由観を実現するため、どのような政策を取る考えか疑問が浮上していた。
 一部の専門家は、この演説によって、エジプトやサウジアラビアパキスタンなど、民主主義が達成されていない同盟国との関係に緊張が生じる恐れを指摘。民主改革が後退気味のロシアとの関係に影響が及ぶ可能性も懸念されている。
(ロイター) - 1月23日14時47分更新

俺判断では「懸念」以前の「意見」でしかないし、記事の中では「匿名を条件の米高官」「一部の専門家」という、そこから先に進めないソースしか語られていませんでした。

↓一方、アメリカ国内の世論調査ではこのようなものもありましたが、
米世論調査:ブッシュ大統領の就任演説 国民の6割評価(毎日新聞

 【ワシントン佐藤千矢子】米ギャラップ社、CNNテレビ、USAトゥデー紙は21日、ブッシュ米大統領の20日の就任式に関する共同世論調査結果を発表した。ブッシュ氏が就任演説で「世界の圧政に終止符を打つのが最終目標」として民主主義と自由の全世界への拡大を訴えたことについて、米国民の約6割は「達成困難」と見ながらも、内容については評価していることがわかった。

 調査は20日、全米18歳以上の624人を対象に電話で実施された。

 調査結果によると、就任式を見た人は、生放送(40%)とニュース(33%)を合わせて73%に上った。これらの人に演説内容について聞いたところ「素晴らしい」(25%)、「よかった」(37%)があわせて62%に達し、「お粗末」(7%)、「恐ろしくひどい」(4%)は計11%に過ぎなかった。「まあまあ」が20%だった。演説内容は、識者や米メディアの一部からも批判を浴びているが、国民は肯定的にとらえていた。

 ただ「圧政終結」の実現可能性については、「達成できない」と考えている人が60%を占めた。「達成できる」は35%に過ぎず、懐疑的な見方が多かった。

毎日新聞 2005年1月22日 12時43分

これもまたサンプル数・調査方法に疑問があります。
要するに、「ブッシュ大統領の就任演説」に関する評価は、それをどう評価するか・したいか、という新聞記者やジャーナリストの情報収集・情報提示によって、いくらでも誘導できるようなレベルのもの、という感じでしょうか。実際の評価は、アメリカに行って、さまざまな人たちに聞いてみないといけないでしょうが、それもニューヨーク在住のリベラルな人と、アメリカ中西部のブッシュ支持派な人とでは、意見が正反対のような気がします。
俺が言えることは、ブッシュ批判も含めて、アメリカは自由で多彩な意見を持つ人がいて、それを自由に発表したりできる、その点に関しては自由でいい国かもしれない、ということぐらいでしょうか。