ものすごくディープな劣化ウラン弾研究サイトを見つけたよ
今回のテキストは長いので、覚悟してください。
→青葉山軍事図書館
「Entrez PubMed」から医学系の論文を拾って、ちゃんと読んでいる人です。リスペクト〜。
→Entrez PubMed
まぁ、細かな内容は以下のところを読んでもらうとして、あちらのかた(→青葉山軍事図書館←)の引用している元ソースと、コメントだけこちらで扱ってみます。
まず、これから。
→劣化ウラン弾の話その1
論文その1。
→Characterisation of depleted uranium (DU) from an unfired CHARM-3 penetrator(フルテキスト読むのに30ドルかかります)
これはCHARM-3というイギリスのチャレンジャー戦車が使用している120mmライフル砲用劣化ウランAPFSDS弾の、発射前における含有成分を分析したものです。
(中略)
この結果から、著者らは、ウラン以外の放射性同位体から発生する放射線は1グラムあたり10ベクレル未満と微量なものであるとしています。この分析が環境や人間への影響を計算する上で役立つだろう、とも述べています。
以上から、劣化ウラン弾にはウラン以外にもごく微量の放射線源、重金属類が含まれていることが分かります。ただし、これらが及ぼす身体への影響には全く触れられていません。成分分析だけです。
論文その2。
→Depleted uranium dust from fired munitions: physical, chemical and biological properties.(要旨のみ)
では、貫徹後の劣化ウラン弾はどのような影響を及ぼすのかについて述べた論文を見てみましょう。
(中略)
まず劣化ウランを含む砲弾を装甲標的にぶち当てて周辺大気を採取、内容をMass spectroscopic analysisで分析しています。
(中略)
つぎに、劣化ウラン化合物を合成し、ラットに吸入させたり筋肉内に埋め込んだりして排泄量を見ています。
(中略)
この論文では弾薬や装甲の種類が不明なので、どの程度現実をシミュレートしているかは確定できません。腎障害を起こした「高濃度吸入」がどれくらいなのか不明ですが、排泄テストでは最大200μgを吸入させたとのことなので、これと同じくらいとするとだいたいマウスの体重1gあたり1μg、体重1kgあたり1gになります。ラットの実験なので、人間にどこまで適応できるかは分かりませんが、これだけの量吸い込めば(体重65kgの兵士なら65グラム)、ウランに限らず体には悪いでしょう。
ちゃんとどのくらいの量の劣化ウランの粒子が大気中に撒き散らされるか、という分析をしている論文があるみたいです。大気分圧の0.19%程度で、7酸化3ウランが47%、8酸化3ウランが44%、2酸化ウランが9%とか。8酸化3ウラン・2酸化ウランは不溶性らしいんですが、7酸化3ウランは聞いたことがないので、成分は不明です。
体重50キロの人が50グラム吸入すると腎障害を起こすらしいですが、そんなに普通に吸入する状況は想像できないです。
論文その3。
→Measuring aerosols generated inside armoured vehicles perforated by depleted uranium ammunition.
これには「周辺大気の採取法」が掲載されているだけみたいなので、→「青葉山軍事図書館」←の人の、次のテキストに行きます。
→劣化ウラン弾の話その2
論文その4。
→Effect of the militarily-relevant heavy metals, depleted uranium and heavy metal tungsten-alloy on gene expression in human liver carcinoma cells (HepG2).
ヒトの肝癌細胞系培養細胞であるHepG2を用いて、軍で使用される代表的な重金属である劣化ウランとタングステン合金の、遺伝子発現に関する影響を調べたものです。
(中略)
注目すべきは、タングステン合金でも遺伝子の発現に影響があるという点です。
なんか、重金属毒性がガンに関係ある、みたいなことでしょうか。
論文その5。
→Transcriptomic and proteomic responses of human renal HEK293 cells to uranium toxicity.
ウランにより、ヒトの腎臓由来の培養細胞であるHEK293にどのような影響が出現するかを調べた論文です。
(中略)
高い濃度のウランはやはり細胞にとって危険なようです。この論文では、放射線の影響については全く言及されていません。加えたウランは、劣化なのか天然なのか不明です。ただウランの化学毒性をみているので、わざわざ区別する必要もないとは思います。
論文その6。
→Depleted uranium-uranyl chloride induces apoptosis in mouse J774 macrophages.
劣化ウランをマウスのJ774というマクロファージ(白血球のひとつ)系培養細胞に加えると、細胞がアポトーシス(自死)を起こした、というものです。
(中略)
より低濃度のウランでも細胞に対する悪影響が指摘されました。ただしかなりのマクロファージは影響が見られないので、この実験から直ちに生体でも影響があるとは言い切れないでしょう。
以上、実験室レベルでの論文を見てきました。マイクロモル/リットル・レベルのウランに暴露されると、一部の細胞で活動性の低下が起こり、より高濃度では遺伝子に不可逆的な傷害が起きたり、死んでしまったりという影響が出ることが分かりました。劣化ウランから放出される放射線に関しては、どれも記述がありません。急性障害がでるほどの高いレベルの放射線が出ているとは考えられないからだと思います。
次のテキストに行きます。
→劣化ウラン弾の話その3
論文その7。
→Chemical and radiological toxicity of depleted uranium.
劣化ウラン弾には天然ウランの約40%の放射能があり、培養細胞や齧歯類(ラット・マウスなど)を使用した実験では発ガン性が証明されているが、人間を対象にした疫学的な研究では健康に対する影響は証明されていない。重金属は尿中に排泄されるため、腎機能障害を起こす危険性があるが、尿中ウラン濃度が相当高くならないと障害が起きない。劣化ウランにさらされた地域でも環境の放射能汚染は観測されていない。現在も研究は続けられているが、今のところは劣化ウランが健康被害を引き起こすことを証明する報告はない。
とのことです。さんざん言われてきた健康被害ですが、思いっきり否定されています。
ちょっとこれは要旨ではなくて全文が読みたくなりました。
論文その8。
→Depleted uranium and radiation-induced lung cancer and leukaemia -- Mould 74 (884): 677 -- The British Journal of Radiology(これはタダで全文が読めます)
劣化ウランと放射線による肺ガン・白血病について述べています。
(中略)
さて、いよいよ劣化ウラン弾関連の話題に入ります。まずは湾岸戦争に参加した兵士について。湾岸戦争参加兵の肺ガン・白血病の報告は、逸話的なものが多く、きちんとした調査がなされているものは稀です。この2種の悪性腫瘍に関し、有意に発症率が上昇したという報告は今のところありません。アメリカで現在進行中の調査としては、湾岸戦争で友軍劣化ウラン弾の誤射をうけた兵士の調査が行われており、30人強を調べたところ15人の尿中ウラン排泄量が上昇していましたが、肺ガンや白血病を発症した兵士はいなかったとのことです。イギリスで53000人の湾岸戦争参加兵の死亡率を1999年3月31日まで調査した報告では、事故による死亡が非参加兵よりもやや多かったものの、病気による死亡率は変化がありませんでした。2000年9月30日まで延長した調査でも同様の結果でした。また、ガンの発症に関して部位別の比較もなされていますが、発症数が少ないので比較は困難です。ちなみに調査期間中の発ガン総数は湾岸戦争参加兵が66人、ほぼ同人数の非参加兵が72人でした。
イラク人に関する研究も行われています。
湾岸戦争前の1989-1990年と、戦後の1997-98年にモスル病院でガン患者の調査が行われています。調査人数は前者が200人、後者が894人。肺ガンの罹患者は男性で戦前が20.5%(25人)、戦後が25.7%(129人)、女性で戦前が2.6%(2人)、戦後が3.6%(14人)、白血病罹患者は男女合計で戦前が11%(22人)、戦後が10.6%(95人)でした。パーセンテージでは有意な変化がありません。
1998年には1991-1997年における肺ガン・白血病の発症に関する軍の統計が出ています。
しかしこれは対照群の決め方が不十分で、質的には信頼性に欠けます。
化学物質の影響についても記述しています。
燃料、爆薬、プラスチック、油田火災などで生じた芳香族炭化水素などの発ガン物質が影響した可能性があります。
ただしこの段落に関しては、明らかな証拠となる文献を示してはいません。
最後に、バルカン半島での劣化ウランについて。1999年3-6月のコソボ紛争において、石油精製工場が攻撃を受けて環境汚染(水銀含有物質、ダイオキシンなど)が発生しました。その結果、付近の4つの都市においては健康被害の原因がこれによるものなのか、他の原因によるものなのか確定するのが困難となったとのことです。劣化ウラン弾は主にアメリカのA-10攻撃機から発射されたもので、巡航ミサイルなどに含まれていたかどうかは不明です。国連の調査団の報告(1999年)によると、使用量や使用箇所については不明とのことでした。しかし、2000年になり、A-10攻撃機から発射された劣化ウラン弾は31000発、劣化ウラン重量8401kgということがわかりました。しかし撃ち込まれた場所については依然不明のままです。
「湾岸戦争参加兵の肺ガン・白血病の報告は、逸話的なものが多く、きちんとした調査がなされているものは稀です」、イラク人に関する研究では「パーセンテージでは有意な変化がありません」「対照群の決め方が不十分で、質的には信頼性に欠けます」、バルカン半島では「付近の4つの都市においては健康被害の原因がこれによるものなのか、他の原因によるものなのか確定するのが困難となったとのことです」といったあたりが、「墓地は幽霊が出るのでこわいところです」的レベルで「劣化ウラン弾の健康被害」についてあれこれ言っている人の反証を待ちたい部分ではあります。幽霊は本当に実在するかもしれませんが…。
論文その9と10。以下のものは存在がうまく確認できなかったので、皆様の情報待ちです。
1つめはイギリスのWestlakes Research Instituteに所属しているSteve Jones氏らの報告。Eskmeals実弾射撃演習場のスタッフと周辺住民の被曝量を計算しています。
もう1つはイギリスのLow Level Radiation Canpaignに所属するRichard Bramhall氏の報告。
実験動物や、亡くなった方の解剖の結果では、気管周囲のリンパ節から高濃度のアクチナイド(原子番号89-103の元素)が検出されました
→「青葉山軍事図書館」←の人の、次のテキストに行きます。
→劣化ウラン弾の話 その4
論文その11。
→Environmental and health consequences of depleted uranium use in the 1991 Gulf War.
最初は環境中のウランについてと、天然ウラン・劣化ウランの物理化学的特性の説明です。
(中略)
劣化ウランはウランのみならず、プルトニウムなど他の放射性物質を含みますが、その量は非常に微量で、無視できる程度としています。
続いて、ウラン及びその化合物の健康に対する影響について。
(中略)
ということで、劣化ウランの健康被害に関しては化学的毒性と内部被曝が重要であろうと述べています。
(中略)
次は許容量に関して。
(中略)
次は湾岸戦争における劣化ウランの使用について。
(中略)
さて、いよいよクウェートおよびイラクでのウラン濃度調査の結果に入ります。
ちょっとここまでは、中略の多いテキストで、元テキスト作者には申し訳ないです。しかし、ここから先のことは、→「イラク全土が劣化ウランで汚染されている」←と言っているハカセな人と、その発言を支持してたり、発言に洗脳されてたりする人たちに対する別の意見になりそうなので、全文(論文の翻訳)を転載してみます。ついでに引用者=俺による一部テキストの太字化もしてみたり。
ウランによる環境汚染の影響は、単に土壌や水・空気中のウラン濃度測定だけでなく、放置された劣化ウラン弾から溶け出していくウラン化合物なども考慮せねばならない。最終的には、住民や従軍兵士の健康に対する影響も測らねばならない。客観的評価には、汚染地域のウラン濃度と自然界でのウラン濃度を比較したり、汚染地域のウラン濃度が許容量を超えているかどうか調べたりすることが必要となる。
1992年、破壊されたイラク戦車の周囲で放射能を測定したところ、大部分が戦車内にあった。少しこすれば放射性物質がはがれ落ちてくる状況であったが、戦車から数メートル離れると放射能は非常に弱くなった。1993年から土壌中のウラン濃度がクウェート大学の地質学チームにより測定開始された。「死のハイウェイ」や、ドーハなど、劣化ウランに汚染されたと予想される地域を中心にクウェート全土から83地点を選び出し、土壌を採取した。また、ペルシャ湾の海底43カ所からもサンプルを採取した。結果、ウラン濃度は土壌1g中0.3-2.5マイクログラムで、平均1.1マイクログラムであった。ちなみに世界平均では2.8マイクログラムであり、かえって少ないという結果が出た。これはクウェート国土が風で飛来した砂で覆われているため、もともとウラン含量が低いためと考えられた。ドーハで破壊された戦車の近くでは、土壌1gあたり数mgという高い濃度で劣化ウランが検出されたが、ここも数ヶ月たてば砂が吹き飛んで拡散すると考えられた。
調査中、土壌から劣化ウラン弾が掘り出されることはなく、50cm以上土にめり込んでいると推定された。中東の土壌条件では劣化ウランの可溶化は生じにくく、年に重量の6%程度が溶け出すと推定された。溶出した劣化ウランは地下水に流入し、井戸からくみ出されて人々の口に入り、人体を汚染する。しかし土壌からの被曝量は年に80マイクロシーベルトを超えない程度で、ほぼ影響がないとみられる。クウェートで飲料水として使用されているRawdatheinの地下水を調査した結果、ウラン濃度は1リットルあたり1.2マイクログラムで、α線の検出量はとくに増加していなかった。実際にはこの地下水に、アラビア海の海水を淡水化したものを混ぜて供給しているため、蛇口から出る水に含まれるウランは1リットルあたり0.02マイクログラムにすぎない。ウランで汚染された水で作物を育てると、生物濃縮が起こりうるが、砂漠地帯のクウェートにはそもそも畑がない。
ペルシャ湾岸地域では、砂漠地帯に比べて劣化ウランの化学変化が速いと推定される。1996年にクウェートの海岸沿い37カ所で土壌を検査したところ、ウラン濃度は土壌1gあたり0.75-3.5マイクログラムであった。また、ウラン235とウラン238の比を測ることで劣化ウランの汚染域を明らかにする試みも行われた。ちなみに天然ウランではウラン235/ウラン238が0.006-0.007となり、劣化ウランではもっと低くなる。こちらは全37カ所で天然ウランと同様の数値が得られた。よって、戦争終結から5年後の段階では劣化ウラン弾による沿岸地域の汚染は観測されないと結論づけられた。
クウェートは砂嵐が起こるので、世界でも空気中の浮遊物質濃度が高いところであり、空気1リットルあたり200マイクログラムを含んでいる。湾岸戦争では10トンの劣化ウラン微粒子が生じたと推定される。劣化ウラン弾を使用した実験で、徹甲弾に撃ち抜かれた戦車内でのウラン濃度は1立方メートルあたり数百−数千mgにも達することがわかっている。劣化ウランは比重が大きいので、微粒子であってもすぐに降下してしまい、戦車からせいぜい10m程度しか飛散しない。120mm劣化ウラン弾が命中した戦車のすぐそばにいた兵士は、ウラン1mgを吸入するとされ、200m離れていれば0.8マイクログラムにまで減少するとされる。よって、吸入の危険性が最も高いのは破壊された戦車の乗員か、その救助に当たった兵士である。米陸軍の劣化ウラン弾で誤射された戦車に乗っていた104人と、その救助に当たった30-60人の兵士を調査した報告がある。彼らは最大240mgのウランを吸入し、20-480ミリシーベルトを被曝した。腎臓への蓄積量は腎臓1gあたり0.2-4.4マイクログラムと推定された。ドーハでの事故の際、そばにいた兵士たちも劣化ウランを吸入したが、その量は10mg以下で、線量は1ミリシーベルトを超えないとされる。偶然劣化ウランに接触した兵士たちもいるが、その場合の被曝線量はかなり低いと考えられる。
「一般人の吸入量はさらに低いとみられるが、彼らはずっと汚染地域に住み続けるので、長期における影響が問題となる。A-10攻撃機が1回の射撃で500平米にばらまいた劣化ウラン弾のうち、10%にあたる4.5kgがエアロゾルとなって地表に散布されたと仮定すると、比重1.5の土壌1mgあたりにウラン6マイクログラムが含まれる計算となる。これが空中に舞い上がると、1立方メートルあたり約1マイクログラムの濃度となる。この空気を1時間あたり0.9立方メートル吸入したとしても、年間被曝量は1ミリシーベルトを超えない。実際、ここまで濃い濃度の劣化ウランに長期間さらされたのはドーハで勤務していた米軍兵士だけだが、彼らも1ヶ月未満しかそこで勤務していないので、年間被曝量はもっと低い。
1993-94年にかけ、クウェート大学のキャンパスで大気中のウラン濃度が測定された。1993年夏にはウラン濃度が1立方メートルあたり0.3ナノグラム程度であったが、冬には0.1ナノグラムにまで低下した。観察期間を通じての平均ウラン含有量は1立方メートルあたり0.25ナノグラムで、世界の他の都市と同じくらいであった。また、ウラン235と238の比は0.0055-0.007で、ほぼ天然ウランと同じであった。同時期に固形降下物中のウラン濃度も測定され、降下物1gあたり1-1.79マイクログラムと土壌とほぼ同じ値であった。こちらもウラン235と238の比は0.006-0.007で、天然ウランと同じだった。」
以上より、クウェートに住んでいる人の吸入による被曝量は年に0.05ベクレルで、IRCPの勧告で規定されている許容量の0.2%以下となる。
湾岸戦争に従軍した米兵のうち、許容量以上の劣化ウランにさらされた可能性があるのは多くて160人前後である。しかし、いわゆる湾岸戦争症候群との関連を調査するため、何百人もの兵士が全身の健康チェックを受け続けている。劣化ウラン弾の破片が体内に入ってしまった16人の兵士を8年間追跡調査した研究では、腎障害をしめすデータは得られていない。また、腎障害以外でも劣化ウランが原因と見られるような症状は出ていない。白血病も観察されていない。コソボ紛争における調査で、バルカン半島に派遣された65000人のイタリア兵のうち、11人に白血病が発症した。これは白血病の一般的な発症率である1万人に1人よりも高そうに見えるが、有意差はなかった。また、原爆被爆者の調査に基づくと、白血病の罹患率が増加するのは1シーベルトという高線量を被曝してから2-5年経過した後である。
湾岸戦争症候群は劣化ウランの暴露のみに基づくものではない。生物兵器に対するワクチン接種、油田火災の煤煙、爆撃後に生じる化学物質などの影響も指摘されており、劣化ウランによる影響はより小さいものに思える。また、イラク市民の健康状態の悪化も、イラク南部の劣化ウラン暴露状況がクウェートにおける状況と類似すると考えられることから、劣化ウランと関連しているとは考えにくい。しかし、ウランの長期間暴露による生物学的影響は十分に分かっているわけではないので、さらなる研究の継続が必須である。
実際の調査がクウェート中心なのは気になるところですが、イラクももう少し情勢が安定すると、このような調査が進むんじゃないでしょうか。
・土壌は心配するほど汚染されていない
・水も心配するほど汚染されていない
・劣化ウランの粒子はそんなに飛び散らない
ということが結論みたいです。
→「青葉山軍事図書館」←の人の結論も、こんな感じです。
ということで、劣化ウランは毒性を持つけれども、クウェートにおける劣化ウランは、人体に毒性を及ぼすような量には達していないという結論になりました。ただし長期経過に関しては不明な点もあるので、これからも慎重な観察が必要であるとのことです。
次のテキストに行きます。
→劣化ウラン弾の話その5
論文その12。
→Incidence of cancer among UK Gulf war veterans: cohort study.
発ガンは、劣化ウランの放射線毒性により生じると考えられています。放射線による発ガンは、白血病で潜伏期が2-3年、その他の固形ガンでは10-20年にもおよぶとされるので、被曝直後にがん発生率を調査してもあまり意味がありません。この研究では、11年が経過しているので、ぽつぽつ固形ガン発生の影響が出始めた頃と考えられます。
湾岸戦争に行っていた兵士と、そうでない兵士を「調査人数約50000人ずつ」調査したそうです。
(中略)
いよいよ結果に移ります。11年のフォローアップ期間中、湾岸群では270人、対照群では269人がガンと診断され、罹患率は両者に有意差はなかった。また、ガンと診断された兵士の性別、年齢、階級、配属部隊にも両者で有意差はなかった。口腔、上部消化管、下部消化管、気道系、悪性黒色腫、他の皮膚ガン、乳ガン、前立腺ガン、精巣ガン、泌尿器ガン、中枢神経系のガン、リンパ・造血系のガン、上記以外のガンに分けて比較したが、湾岸群と対照群の罹患率に有意差はなかった。
戦争当時の喫煙・飲酒歴が残っていた兵士が湾岸群で28518人、対照群で20829人いたので、彼らの罹患率を喫煙・飲酒量で補正して比較したが、総数および各種ガン罹患数ともに有意差はみられなかった。
湾岸群を、生物兵器に対するワクチンを打ったかどうか、殺虫剤を使ったかどうか、劣化ウランに暴露された可能性があるかどうか、でそれぞれ分類し、ガン罹患率を比較したが、これもやはり総数・各種ガン罹患数とも有意差はみられなかった。
この研究の欠点は、補正を加えたデータについて、尿中ウラン濃度などの客観的証拠がないということです。自己申告なので、本当にウランなどに暴露したのかしていないのか不明です。湾岸地域に派遣されていない兵士との間で有意差がないので、よしとしたのかもしれませんが。
本研究で、湾岸派遣兵とそれ以外の兵士の間にはガンの発生率に大きな差がないことが分かりました。本当はイラク南部及びクウェート住民の発ガン率の調査結果もあると良いのですが、現在検索中です。
ということで。ただ、俺の私感としては、劣化ウラン弾で破壊された戦車の残骸処理に従事していた人(兵士)は、ちょっと特別扱いして調査してもいいかな、とも思います。その他、どういう軍務についていたのか、によってのガン罹患数というデータも見たいところです。
引用を続けます。
論文その13。
→Health effects and biological monitoring results of Gulf War veterans exposed to depleted uranium.
これは劣化ウランが体内に残った人の検証ですが、調査人数が29人ということなので、論文として意味があるかどうか疑問です。
論文その14。
→A review of the effects of uranium and depleted uranium exposure on reproduction and fetal development.
劣化ウランの経口摂取・吸入が及ぼす生殖系への影響や、奇形原性に関してはデータが少ない。劣化ウラン弾片が食い込んだ場合の生殖系への影響に関しては、データが全くない。
↑は論文の要旨からの引用です。
論文その15。
→Reproductive and developmental toxicity of natural and depleted uranium: a review.
これに関する元テキスト者の言及と引用はけっこうあるので、できれば原文を見てみてください(→劣化ウラン弾の話その5)。
劣化ウランによる先天性障害に関しては、マスコミではかなり騒がれていますが、医学論文としてしっかりとまとめたものは少ないようです。
よって、次はウランと生殖・発達障害について記述したreviewを読むことにします。
(中略)
ついで、ウランの生殖器系に対する毒性を述べています。
(中略)
ラットやマウスの報告ばかりで、ヒトに関する報告がないと著者らは嘆いています。ラットの実験に関しても、劣化ウラン弾微粉末で問題になるのは主に酸化ウランなのですが、化合物が違うので毒性がそのまま比較できず、参考程度にしかなりません。
(中略)
続いて、母体および胎児における影響について。
(中略)
これまたネズミの実験ばかりです。劣化ウランを使用した実験もあるようですが、abstractのみで詳細が不明で、どれくらいの量を埋め込んだのかも分かりません。上記から分かるのは、マウスに酢酸ウランを妊娠6-15日に5mg/kg/day以上経口摂取するか、0.5mg/kg/day以上皮下投与すると、母体や胎児に悪影響が出る、ということです。あと、Mはmol/lという単位のことです。
ヒトでの疫学研究では、ウランと胎児毒性の相関関係は薄いようです。ただ、論文がひとつしかないので、これだけで結論を出すのは早いでしょう。
次は、ウランによる毒性を防止する物質の話が出ています。
とか、いろいろあるんですが、引用も煩雑になるので、最後の奴だけ。
ということで、ウランを投与すると胎児に影響が出るであろうことはマウスの実験で分かったのですが、その投与量は非常に多量です。制限の10倍のウランを含む水を飲んで体重70kgのヒトの胎児に影響が出るには、毎日20リットルを飲まなければなりませんが、無理です。
また、肝心の劣化ウランに関する毒性がほとんど研究されていないというのがイマイチ。これからの研究待ちといったところです。
「制限の10倍のウランを含む水を飲んで体重70kgのヒトの胎児に影響が出るには、毎日20リットルを飲まなければなりません」ということは、通常の水を毎日200リットル飲むと胎児に影響が出る、という感じでしょうか。おまけにそれが劣化ウランの放射線によるものかどうかはよくわからないし。
しかし→「青葉山軍事図書館」←の人の、この件に関する最新テキストは2005年7月24日。医学系で責めているサイトとしてはもっとも最新の情報を提供しているところなのでは、と思います。まだまだ続くようなので今後が楽しみです。