「NO DU 若者ネット」の、タチの悪い伝言ゲーム

こちらのテキストがけっこう興味深かったので、少し批判的に読みこなしてみようかと。
劣化ウラン兵器の医学的検証(NO DU 若者ネット)
いろいろありますが、とりあえず「バスラ大学医学部が提供している統計データ」と「ウラニウム医療調査センタ−(UMRC)」については判断を保留することにして(私的に信頼度が低いという判断理由があります)。で、劣化ウラン(化学的毒性の面で)体に悪い、ということは俺も否定しないので、それが「放射性物質的に体に悪い」ということが確認されているのか、を見ることにしてみます。
まず、「①催奇性」ですが、これは放射性物質についての言及ではないので、俺も言及を避けます。
次に「②発ガン性」ですが。

Hahn氏らは、ネズミに、重金属だが放射性物質でないタングステンと、放射性物質トロトラスト、それに劣化ウランを埋め込む実験を行ったところ、トロトラストと劣化ウランがより多くの肉腫(悪性の腫瘍)を作ることを報告しています(4)。これは、劣化ウランが重金属としての発ガン性だけでなく、放射能としての発ガン性も持っていることを示しています

今日はこのテキストを掘ってみます。ざくざく。
この「(4)」という論文は、テキスト末尾に添付してある「(4) Hahn FF. Environ Health Perspect 2002;110:51」で、アブストラクトを検索してみると、こんなところにありました。
Implanted Depleted Uranium Fragments Cause Soft Tissue Sarcomas in the Muscles of Rats(埋め込まれた劣化ウランの断片がラットの筋肉に軟組織の肉腫を引き起こす)
割と短いので全文を試訳してみます。

In this study, we determined the carcinogenicity of depleted uranium (DU) metal fragments containing 0.75% titanium in muscle tissues of rats. The results have important implications for the medical management of Gulf War veterans who were wounded with DU fragments and who retain fragments in their soft tissues. We compared the tissue reactions in rats to the carcinogenicity of a tantalum metal (Ta), as a negative foreign-body control, and to a colloidal suspension of radioactive thorium dioxide (232Th), Thorotrast, as a positive radioactive control. DU was surgically implanted in the thigh muscles of male Wistar rats as four squares (2.5 2.5 1.5 mm or 5.0 5.0 1.5 mm) or four pellets (2.0 1.0 mm diameter) per rat. Ta was similarly implanted as four squares (5.0 5.0 1.1 mm) per rat. Thorotrast was injected at two sites in the thigh muscles of each rat. Control rats had only a surgical implantation procedure. Each treatment group included 50 rats. A connective tissue capsule formed around the metal implants, but not around the Thorotrast. Radiographs demonstrated corrosion of the DU implants shortly after implantation. At later times, rarifactions in the radiographic profiles correlated with proliferative tissue responses. After lifetime observation, the incidence of soft tissue sarcomas increased significantly around the 5.0 5.0 mm squares of DU and the positive control, Thorotrast. A slightly increased incidence occurred in rats implanted with the 2.5 2.5 mm DU squares and with 5.0 5.0 mm squares of Ta. No tumors were seen in rats with 2.0 1.0 mm diameter DU pellets or in the surgical controls. These results indicate that DU fragments of sufficient size cause localized proliferative reactions and soft tissue sarcomas that can be detected with radiography in the muscles of rats.
(猛烈な試訳)
この研究により、ラットの筋肉組織の中にある劣化ウランの金属片(0.75パーセントのチタニウムを含むもの)は発がん性がある、と我々は判断した。劣化ウランの破片で傷ついたり、軟組織に破片を残している湾岸戦争の退役兵の医学治療において、その結果は重要な意味がある。消極的な異物対照としてタンタル・メタル(Ta)の発がん性、および積極的な放射能対照として放射性物質である二酸化トリウム(232Th)のコロイド懸濁液(トロトラスト)を、我々はラットの組織反応の比較物とした。劣化ウランはウィスター系ラットのオスの大腿部に、外科的に埋め込まれた。1匹につき4つの小片(2.5×2.5×1.5 mmあるいは5.0×5.0×1.5 mm)もしくは4つの小丸(直径2.0あるいは1.0 mm)である。タンタル・メタルは同じように、1匹につき4つの小片(5.0×5.0×1.1 mm)が埋め込まれた。トロトラストは各ラットの大腿部筋肉両部に注入された。実験比較対照のラットは外科的埋没手術のみのものが用いられた。措置の対象となったグループはそれぞれ50匹のラットが含まれた。結合組織被膜が、トロトラスト以外の埋め込まれた金属の周りに形成された。レントゲン写真は、劣化ウランが埋め込まれるとただちに腐食したことを明らかにした。しばらく後、レントゲン写真の画像で、rarifactions(薄くなること?)が増殖性組織反応と関連づけられた。生存期間中の観察の後、軟部組織の肉腫罹患率は、劣化ウラン5.0×5.0mm小片および積極的対照のトロトラストでははっきりと増加していた。2.5×2.5mm小片の劣化ウランおよび5.0×5.0mm小片のタンタル・メタルでは、若干発生が増加していた。直径2.0・1.0 mmの劣化ウラン小丸のラットと外科手術のみのラットには違いは見られなかった。これらの結果は、十分な大きさの劣化ウランの断片は、局所的な増殖反応、およびラットの筋肉の中にX線で検知することができる軟組織の肉腫を引き起こす、ということを示唆している。

(医学専門用語続出なんで、専門家による試訳訂正を切に望みます)
と、ざっと読んでみたんですが、「劣化ウランタンタル・メタルよりも発がん性が高い」という以上のことは言っていないように思えます。その原因が「放射能としての発ガン性も持っている」から、というのは、この論文(の要旨)でも別に言っていないので、「NO DU 若者ネット」の中のテキストを書いた人の妄想(と言って悪ければ、私的判断)にすぎないのでは。「トロトラストと劣化ウランがより多くの肉腫(悪性の腫瘍)を作ることを報告しています」というのも大嘘。正確には「ある程度以上の大きさ劣化ウランの切片(と、トロトラスト)」で、小さい切片・小丸の劣化ウランでは有意の差を見出していません。
「重金属だが放射性物質でないタングステンと」って、そもそも「タングステン(W)」なんて、この論文には出てこないし。念のために「Environ Health Perspect 2002;110:51」が間違ってないか、イシューを確認してみたんですが、間違いなかったです。
タングステンWikipedia
タンタルWikipedia
まぁ「ネズミ」と「ラット(ウィスター系ラット)」も、厳密には違うんですけど、これにはこだわらず。クロム族元素とバナジウム族元素ほどの違いはないと思います。
しかしまったくタチの悪い伝言ゲームで、→「NO DU 若者ネット」←の中にある→「劣化ウラン兵器の医学的検証」←は、元論文を故意に(意図的に)劣化ウランの「放射性物質としての害」と歪んで解釈し、それを流布させているように思えるので、他の論文もすべてチェックしてみたくなりました。とはいえ、元論文をどこから取っているのか、引用元をそれなりに明記している(論文名は明記してないですが)のは好感が持てました。ていうかそういうことするのは基本ですね。
このようなテキストを参考にしているシバレイさんも、本当のことを知ったら多分迷惑だと思います→http://reishiva.exblog.jp/3160303/
もう一つだけ加えると、俺が調べた限りでは、→「劣化ウラン兵器の医学的検証」←の中で「尿中劣化ウラン濃度」と訳されているテキストは、

その結果、尿中劣化ウラン濃度が高くなるにつれて、神経、認知テストが悪くなり、生殖系統のホルモン機能に異常を認めています。

原文では「urinary uranium(尿のウラン)」で、劣化ウランとは書いてなかったり。
Health effects of depleted uranium on exposed Gulf War veterans.(Environ Res. 2000 Feb;82(2):168-80.)
機会があったら、次はこの論文のアブストラクトを訳してみたいです。