普通の穴が欲しかったら宮部みゆきで十分だ。それで足りなければ恩田陸と石田衣良
「DIYの店にドリルを買いに来る人が本当に欲しがっているのは、ドリルではなくて穴だ」という、消費者と商品に関する有名な言葉があります。
→ドリルではなく穴 欲しい - Google 検索
そんな馬鹿なことがあるか、と思っている人も多いとは思いますが、それは「買う側」ではなくて「売る側」の姿勢をいましめる言葉で、たとえば新製品で、ものすごい勢いで何十の穴を開けることができるドリルとか、変な場所にでも簡単に、変な形の穴を開けるドリルがあったとしましょう。で、ドリルを探している人に「こんなドリルはいかがでしょうか」とおすすめするのがよくない店員です。
いい店員(あるいは、普通の店員)は、客がどのような穴を、どこに開けたがっているのか、をまず知ろうとするわけです。すると、たいていの客はそんなにすごい穴が欲しいわけではないので、「安いけれども、自分が望んでいる穴が容易に手に入り(容易に穴を開けることができ)、さらに多少は他の穴を開けるのにも使えそうなドリル」を購入の対象として選ぶことになるわけですね。
いきなり話は飛びますが、普通の町で売っている書店の品揃えが似てきてしまう、というのも、それを考えるとわかると思います。
たいていの書店の客は、そんなに特殊な(あるいは、すごい)穴を必要とはしていない、ということです。
この場合の「穴」とは「本」「本の話をする相手」と考えればいいんですね。
大学のSF研究会(ってまだあるんですか、各大学には)ならともかく、普通の人は普通の家に住み、普通の人が身の回りにいて、最近読んだ本の話にグレッグ・イーガンとか『肩をすくめるアトラス』(余談だがこの本が翻訳で出ているのを見たときには驚いたよ)などをするわけはないので。
それにDIYの店なら、数年に1つ売れるドリルであっても、それを求める客がいると想定できる場合は揃えておく必要はあるかもしれませんが、書籍はドリル業界と比べて新製品が桁違いに出ています(多分)。
特殊な穴の話をしたい人は、多分ネットで本を買い、その話をネットでする、ということになると思います。
ていうか、ぼくの場合はそういう穴の話をする(ネタにする)ために、本を読んでいます。
それから、そういう変な穴の話をしている人(これは「本」に限定されません)のテキストを読むために、ぼくはネットにアクセスしています。そういう人は、ネットでは普通です。
だから、もしあなたがある程度以上のアクセスを望みたい人だったら、ネットの中で宮部みゆきの本の話をする場合は、その話しかたが特殊である必要があります。
でないと、あなたの身内(身の回りにいる人)以外は誰もそのテキストを読まないことになるかもしれません。
(補足)
これは要するに、「書店に本を買いに来る人が本当に欲しがっているのは、本ではなくてコミュニケーション・ツールだ」という話です。映画でもCDショップでも同じことですね。
(追記)
このエントリーで「はてなポイント」を匿名のかたからいただきました。どうもありがとうございます。
(2006年5月19日)