タワーレコード倒産の誤報と真実について。あとヒットチャートの起源
前後しますが、まず音楽の「ヒットチャートの起源」については、このようなことが書かれているサイトがありました。
→全米チャートの基礎知識 その①
「ビルボ」は1894年11月に創刊されましたが、音楽チャートが掲載されたのは1940年7月。そして55年11月12日より「TOP100」が制作されました。これは今日の「総合チャート」の前身ですね。チャートファンの間では、ここから「RockEra(ロックの時代)」が始まったとされ、現代の全米チャートの始まりとして、記憶されています。すなわち、それ以前が「紀元前」、その後が「紀元後」にあたるというわけです。更に58年8月に今も使っている「HOT100」に改名し、それまでの単なる協力店の売上高でのチャートから放送プレイ回数や、ジュークボックスでの売り上げ回数まで含まれる総合チャートに変貌した、と言われています。
すばらしい。
上記のサイトには、オリコンの話なども載っているので、ヒットチャートに興味のある人はちょっと目を通しておいてもいいと思います。
以下のところからいろいろとご覧ください。
→Others(『全米チャートの基礎知識』1〜4)
で、実際に昔の曲をヒットチャートで聞いてみたい、という人は、ネットでは以下のサイトを利用して購入するのがいいんじゃないかと。
→Billboard Top 10 List
↑1955年から2003年までの年間チャート Top Singles 50などがあります。シングルに限定すると、1980年代の中ごろ以降は意味あるのかな、という気がしないでもありませんが。
本として買うなら、こんなのとかも。
→『ビルボード年間トップ100ヒッツ1956‐2001』(アマゾン)
で、タワーレコードの話です。
こんな記事がありまして、
→夕刊フジBLOG - iPodで、ついに巨大な犠牲者
■大前研一の「IT時評」
テーマ2:米タワーレコードが廃業する。清算会社に約160億円で売却され、店舗や資産などを清算する。約3000人の従業員は失業する恐れが出ている。(10月15日放送)
音楽プレーヤーのiPodや音楽配信サービスiTunesの影響で、ついに巨大な犠牲者が出ました。
ただ、CDはまだ一部で売れていますので、各レコード会社は今後さらに値下げして、CDを買う客を音楽配信にとられない戦略をとるべきでしょう。同時に、ネットで配信される音楽については、きちんと版権料をとるべきです。
最終的にレコード会社はコンテンツを作る役割に専念し、CD販売や音楽配信は外に出すという形態になると思います。ただし、いまのiTunesでは、レコード会社は売り上げの25%しかもらえません。75%もアップルが取るのは、やり過ぎです。だから私は、アップルの対抗馬が出てくるのを待ち望んでいます。(2006.10.23紙面掲載)
ビジネス・ブレークスルー(スカイパーフェクTV!757チャンネル)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。
「はてなブックマーク」のコメントは大前研一さんの見解に否定的。
→はてなブックマーク - 夕刊フジBLOG - iPodで、ついに巨大な犠牲者
2006年11月07日 Desperado 老害は老害で楽しいもんだね〜
(略)
2006年11月06日 udy これはひどい 突っ込みどころ大杉。嘘をまきちらしちゃいかんよ。
(略)
2006年11月06日 nicht-sein これはひどい 米タワレコが破綻したのはiTSのせいじゃなくて、ウォルマートがレジ前でCDのディスカウントしたからでしょ。そもそもiPod関係ないし、いくらなんでもこれは酷い認識。
ぼくのコメント欄でもこんな記述が。
→愛・蔵太の少し調べて書く日記 - 消えものニュース(2006年11月08日)
# nishi22 『>★iPodで、ついに巨大な犠牲者(via はてなブックマーク - タグ「これはひどい」を含む注目エントリー)
iPodって、売り上げの75%も取っていたのか。
とりあえず、タワーレコードが潰れた原因はiPodというのは誤報っぽいですよ。
http://ugaya.com/column/061013president.html』
いろいろ知らないことを、コメント欄をオープンにしていると教えてもらえるのです。
ということで、烏賀陽弘道さんのテキストについて、少し調べたのを、今回の「オリコン訴訟」事件で思い出したのでまとめてみます。
→■タワーレコード破綻報道はなぜかくもピント外れになったのか?■
それでは、タワーレコードに「致命傷」を負わせた真犯人は誰か。
このへんの分析が詳しいのは、タワーの本社(カルフォルニア州サクラメント市)がある同州の新聞である。例えば06年2月25日付『サンフランシスコ・クロニクル』紙は「タワーレコードに再度の身売りの情報」という内容で、同社の経営危機を伝えている。そう、タワーの二回目の経営危機はもう06年2月の時点で報道されていたのだ。
同紙によれば、「タワーに痛撃を加えた要素」は(1)大手安売り量販店(2)インターネットCD通販、そして(3)「デジタル・ダウンロード」(ここには、iTuneMSのような正規の販売網だけでなく、ファイル交換によるダウンロードも含まれるものと思われる)の順である。
『サンフランシスコ・クロニクル』の記事を探してみました。
→Tower Records goes on the block again
Tower Records goes on the block again
Record store chain had recently exited bankruptcy status
Dale Kasler, Sacramento Bee
Saturday, February 25, 2006
Two years after emerging from bankruptcy protection, Tower Records is reportedly up for sale again.
The West Sacramento record store chain has hired the Los Angeles investment banking firm of Houlihan Lokey Howard & Zukin to market the company, according to a report in Billboard magazine.
Tower tried seeking a buyer in 2003 and 2004, but was unable to complete a deal.
The new attempt comes as no surprise. It's always been anticipated that Tower's bondholders, who took control of the company during its bankruptcy case, would eventually want to sell.
Tower and Houlihan Lokey officials couldn't be reached for comment. One of the bondholders, the Los Angeles investment firm MW Post Advisory Group, declined to comment. Others couldn't be reached.
Tower, once a stunning success story, got clobbered by discounters, Internet sellers and the digital downloading phenomenon on the Internet.
The market research firm Nielsen SoundScan said CD sales dropped 7 percent last year and have fallen 21 percent since 2000. Musicland was the latest big retailer to file for bankruptcy and has just been taken over by Trans World Entertainment, which owns the FYE chain.
The industry "is beyond struggling," said Barry Sosnick, an industry consultant.
For a while after Tower left bankruptcy, it had appeared that the music business was rebounding. But the retail industry continues to struggle in the iPod era and went into another tailspin late last year. Holiday sales were down 12.5 percent, according to Nielsen SoundScan.
Sosnick, head of a consulting firm called Earful.info, said music retailers are hurting because consumers are shifting their dollars toward DVDs and video games. Tower sells those products, but they carry lower profit margins than music, he said.
For years, Tower was an icon of music retailing. In the late 1990s, it spanned the globe and generated more than $1 billion in annual sales. But its crumbling finances forced it to sell its profitable Japanese stores and leave other international markets. Its remaining overseas stores are franchises.
The company operates about 90 stores in the United States.
引き続き引用を続けます。
→■タワーレコード破綻報道はなぜかくもピント外れになったのか?■
なぜそうなったのか。アメリカの主要紙を読み比べてみる限り、どうもニューヨーク・タイムズ紙(ダウ・ジョーンズ/AP電)の論調を鵜呑みにした気配が濃厚である。日本での第一報の発信地が例外なくニューヨークであり、量販チェーン店を無視して「タワーレコード破綻=ネット配信単独犯行説」を唱えているアメリカの主要紙はNYTくらいしかないからだ。
『ニューヨーク・タイムズ』の記事を探してみました。
→Tower Records Will Auction Its Assets - New York Times
Tower Records Will Auction Its Assets
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By DOW JONES/THE ASSOCIATED PRESS
Published: August 22, 2006
The parent company of Tower Records, which filed for Chapter 11 bankruptcy protection on Sunday, is seeking to sell its assets through a court-supervised auction Oct. 5.
The company, which operates 89 stores in 20 states and is owned by the privately held MTS Inc., said yesterday that it needed to close the sale by mid-October to prepare for the holiday shopping season, when it has about 32 percent of its annual sales.
Tower said revenue fell to $430 million for the fiscal year ended July 31, from $476.1 million a year earlier. The company said intense competition had hurt its business and that of other music retailers.
“The brick-and-mortar specialty music retail industry has suffered substantial deterioration recently,” Tower said in court papers. The company made its Chapter 11 filing in United States Bankruptcy Court in Wilmington, Del.
Industry observers say the chain could have a tough time finding a buyer willing to keep its brick-and-mortar stores operating in an industry increasingly dominated by online music sellers and big-box retailers.
Phil Leigh, a senior analyst for Inside Digital Media Inc., said that the Tower brand had value and would find a buyer, but that its stores were not likely to survive this latest bankruptcy. The company emerged from another bankruptcy in 2004. “I think they’ll sell off the name and liquidate the inventory,” Mr. Leigh said.
Tower Records, however, said it had seen “substantial interest among potential buyers” and hoped to find a buyer willing to continue operating its stores. The company said it was actively negotiating with one potential buyer and had received another offer on the eve of its bankruptcy filing.
It is “absolutely our intention to keep the Tower brand alive,” a spokeswoman, Lisa Amore, said.
Russ Crupnick, a music and movies industry analyst for the NPD Group, said, “It’s kind of shocking how many pure-play music retailers have closed down in the time that we’ve been tracking the market.”
Music-download retailers like iTunes from Apple Computer have played a major role in displacing traditional retailers. Nielsen SoundScan, cited by Tower in bankruptcy court filings, said legal digital downloads grew 200 percent in 2005 as album sales fell 7.8 percent. Data compiled by NPD Group ranked Tower as the No. 9 seller of physical music, including CD’s, in 2002. In the first six months of 2006, it was tied for 12th, Mr. Crupnick said.
いろいろなことがわかりました。
とりあえず、烏賀陽弘道さんはソース(元記事)については、言及はするけれどもそこにリンクはしない、というレベルのインターネット使い(あるいは、そういう主義)なのが、関係ないけれどわかりました。情報提供のしかたとしては、オリコンとのトラブル時に通じる「ちょっとマズいかな」感があるんですが、「元新聞記者」だったことと関係あるのかな、とも。あと、これの元テキストが、インターネットとは関係のない媒体で最初に公開されたためだろうか、とかいろいろ。
それに対して、
→大前研一の新・産業革命 : 第 1 回 - 産業と企業の突然
アメリカ国内に93の店舗と3000人以上の従業員を抱える音楽ソフト販売大手のタワーレコードとその親会社MTSは、2003年の2月初め、米連邦破産法第11条に基づく会社更生手続きの適用を申請した。その引き金となったのは、アップル社の「iTunes (アイチューンズ)Music Store」をはじめとするオンラインの楽曲販売との競合である。
(中略)
タワーレコード経営陣は、破産法適用前に身売り先を探したが、引き受け手が見つからなかったという。iTunesの成功によって、旧来のレコード販売店やレコード流通業者は、産業ごと突然死の危機にさらされているのである。
日本で「iTunesが引き金となってタワーレコードがつぶれた」と言いまくって、「これからは音楽配信っすよ」というような都市伝説(あるいは、新しい金鉱を掘るためのつるはし)を売っている人の代表は大前研一さんのようです。
ちゃんとした人はこんな感じの分析。
→bpspecial ITマネジメント:コラム:米タワーレコード破産 原因はiPodとは別のところ(2006/9/13公開)
もう少し具体的にみると、米タワーレコード倒産の原因は、まずウォルマート、ターゲット、コストコといったディスカウントショップの存在が考えられる。なお日本は少々事情が異なり、スーパーマーケットでの新譜CDの値引き販売はできない。次に考えられるのが、アマゾンのようなインターネットサイトという販売チャネルである。よく知られているように、ネット書店として成功したアマゾンは、商品カテゴリーの多角化を図り、CDやDVDなどの販売にも参入してきている。これに対抗して、米タワーレコードも遅まきながらネットでのCD販売を始めたり、さらにはアマゾンへのカウンターアタックとしてネットでの書籍販売も始めたりしてきた。しかしアマゾンがネット書店としての集客力とノウハウをCDなど他商品へ展開したのと異なり、米タワーレコードのネット販売戦略に勝ち目があるとは思えない。いわば顧客にとって、米タワーレコードの提供する価値が見えなくなってきたということだろう。
三番名にiTunes Music Store (iTMS、アイチューンズミュージックストア)など音楽ダウンロードサイトの影響が考えられる。しかし2005年の米国における音楽ダウンロードのシェアはわずか6%に過ぎない。おそらく、一部報道にあるように音楽ダウンロードが倒産の主要因というよりも、上に述べたように、ディスカウントショップの存在とアマゾンのようなインターネット販売の影響が大きいものと思われる。音楽ダウンロードの影響もないとは言えないが、iPodのような携帯音楽プレーヤーの利用者でもダウンロードだけでなくCDを購入している場合もあろう。
近い将来に、可能性として「音楽ダウンロードサイト」によりリアルCD販売がなくなったり、取り扱っているCD屋がなくなる、ということはあるかもしれませんが、2006年8月時点での米タワーレコードの倒産は、それの影響ではない、ということです。
宮永博史さんの上記の分析は「2006/9/13公開」ということなので、烏賀陽弘道さん(『プレジデント』06年10月16日号掲載のオリジナル原稿)より少し早いみたいですが、タワーレコード倒産に関するちゃんとした分析は2006年の秋には複数の人間によっておこなわれているみたいです。(追記:烏賀陽弘道さんの『誰がタワーレコードを殺したのか?』というテキストが、「2006.09.13配信分」の「メルマガ「週刊ビジスタニュース」」に掲載されており(http://www.sbcr.jp/bisista/mail/art.asp?newsid=3015)、こちらは『プレジデント』掲載テキストより約ひと月早いもので、宮永博史さんとほぼ同時です。あとでこのテキストの存在に気がつきましたので追記しておきます)
とはいえ、ネットではそれはうまく伝わっているのか、少し疑問を感じました。
以下のところはけっこう面白かったです。
→えるみれ | 米タワレコ倒産をダウンロードのせいだけにするのは…
って音楽ダウンロード販売だけのせいにするのはどうかなぁ。
昨年と比較して店舗あたりの売り上げが9%落ちているのはたしかに合法・非合法にかかわらないダウンロードのせいもあるけど、ベスト・バイやウォルマートのようなショートヘッド・リテーラーの売れ線だけ大量仕入→安価に販売っていうのもあるのかも。
↑その他いろいろなところにリンクが貼ってあるので、よろしければご覧ください。
出版業界だと、本が売れないのはケータイのせいだ、という説は一般化しているみたいですが、大手小売チェーン(紀伊国屋とか三省堂とか)が「ケータイによる本のダウンロード販売でつぶれた」という状況になるとは、まだ当分考えられません。音楽のほうがダウンロード販売は進んでいるみたいですが、基本的に日本は本もCDも再販制度によって小売価格が決められているので、アメリカとは状況が違うからどういう展開になるか。ただ、販売面積の少ない(たくさんの商品を並べられない)書店・CD屋はどんどん淘汰が進んでいて、寡頭寡占気味になっているのでは、と思います。
こんなのがすでにあった。
→音楽配信メモ そもそも米タワー破産を「配信のせい」と言い出したメディアはどこなんだろうね
産経の社説。
→【主張】音楽配信とCD 共存共栄に知恵しぼろう-コラむニュース:イザ!
またしてもインターネットの猛威を見せつけられた。米音楽ソフト販売大手のタワーレコードが連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)適用を申請したのである。CDショップの代名詞でもある同社の破綻(はたん)は大きな時代の変化の象徴といえる。
ネットの進展が、既存のコンテンツ産業に劇的変化をもたらす予感はあった。1990年代末、米ナップスターが、利用者同士がネット上で自由に音楽を交換するサービスを始めたとき、真っ先に影響を受けるのは音楽業界ではないかとみられていた。
音楽は動画に比べて容量が小さく、短時間でダウンロードできる上、パソコンなどの限られた容量の記憶装置でも大量に保存できるからだ。
同サービスは後に著作権侵害と判断されたが、2003年、好きな曲を安価で携帯電話やパソコンにダウンロードさせる音楽配信ビジネスが登場すると、事態は大きく動き出す。
ダウンロードした曲をデジタル携帯音楽プレーヤーに収めて持ち運んだり、既製のアルバムを買わずに、お気に入りの曲だけで自分用のオリジナルCDを家庭で作成したりすることが、今では普通に行われている。
国内でも、CD生産額はピークに比べて3割近く減っているのに対し、有料配信売上高は、本格サービスが始まった昨年が342億円、今年は500億円を超える勢いだ。
日本には再販制度があることで、米タワーレコード破綻の一因であるスーパーなどの安売り攻勢に歯止めがかかっているとはいえ、対岸の火事を決め込むわけにはいくまい。
もっとも、演奏時間が長いクラシックの楽曲やライブ演奏の完全収録などは音楽配信より、CDが適している。ヒット曲ばかりを集めたベストアルバムも多数の曲を収録できるCDの方が便利だ。実力派アーティストは、音楽配信、CDのいずれも好調な売り上げを記録している。音楽配信を試聴感覚で利用し、改めてアルバムを購入するという人も多い。
こうしてみると、作り手、売り手の努力と工夫で両者の共存共栄は可能にみえる。音楽配信利用者もCD購入者も音楽ファンであることには変わりがないのである。
「米タワー破産を「配信のせい」と言い出したメディア」は、ニューヨークタイムズ(と、それを読んで書いた日本の新聞記者)らしい、ということは覚えました。