翻訳小説が出なくなる

最近どうも翻訳小説を読む人が、ミステリーとSFを除くと減っているみたいで。
それも英語圏以外のものに関してはさっぱりなわけで。
でもって、SFとミステリーも、売れているものはそれなりにあってもベストセラーにはあまりならなくなっていて。
SF・ミステリー業界では「シリーズものの続きが出ない」ものがいくらでもあるわけです。
そんなことは昔からですが。たとえば「ナポレオン・ソロ」(一世を風靡した痛快娯楽スパイ小説。TVドラマのほうが有名)ですら全部は翻訳されなかったんじゃないかな。
で、今後の状況なんですが、たとえば値段を高くすれば固定読者は買う(SFなんかはすでにそうなっている)。問題は、翻訳者が翻訳して食っていけるか、という経済的なところでして。
すでにロシア語・ドイツ語・イタリア語・スペイン語・フランス語などの小説の翻訳者は、初版3000部で5000円、みたいな本(それでもあちらではそこそこ売れたような本)を、年に1冊出しても全然食えないわけで。
翻訳印税5%としても、3000×250円だと、ええと、75万円。それでは1年は食えません。10冊翻訳すれば食えるかも知れないけど、5000円の本を10冊出す出版社も、読む読者もいない、という。
技術関係の本も、ロシアなんかはあるとは思えないし。実用書なんかはどうだろう。とんと検討がつかない。ロシア語の翻訳者は、いったいどうやって食っていっているのか。大学で教えて食っているのか。一応、国際交流とか商売としての通訳・翻訳の需要はあるとは思うけど、小説なんかは無理。
日本全国で、数百人単位の趣味の人が、ロシア語・ドイツ語・イタリア語・スペイン語・フランス語の小説を原書で読んで「これ、面白いよなぁ」と話をする、という、ほとんど俳壇・歌壇の世界
英語圏の、SF・ミステリーの翻訳をしている人はまだマシだけど、たとえば文庫で800円、2万部、翻訳印税5%だと、2万×40で80万円。まぁそれでも数冊は翻訳できるか。人間の能力から言うと、毎月1冊翻訳できるのかなぁ。10万部ぐらい売れるのがあったり、何冊か重版がかかるようなものがあると、年収数百万は可能な線。
フリーライター的職業で年収数百万(それも、下のほうの数百万)だと、サラリーマンの「年収300万」というレベルより全然下。かなり特殊な特殊能力を持っている割には、タイヤの溝刻みリサイクル職人*1とか、ごみ収集職人とかのほうが全然まし。
英語のテキストを読んで、「I」を「ぼく」か「私」か「俺」か、読みながら判断できない、中途半端な語学力の人は、日本語の翻訳を待っているより、原書で読んだほうが、というより、読むしかない時代なわけです。
昔は、「翻訳が出ないなら、自分で翻訳してみろ」という時代もあったんですが、翻訳しても出版してくれる出版社がないとどうしようもない。早川書房東京創元社はそれでも、マイナーメジャーな小説で翻訳権料の高くない、もしくはタダなものなら出してくれるかしれない。国書刊行会とか、論創社とか、河出書房も可能性はあるか。ただし、あちらのベストセラー小説は、中途半端にベストセラーなものは無理。
以上、伝聞情報から出版状況をテキスト化・再構成してみました。取り扱いにはご注意ください。
翻訳の現場にいる人は、もっとすごいことを知っているかも知れない。
 
(追記)
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2007年03月10日 stella_nf publishing ロマンス小説の翻訳レーベルがここんとこ増えてるんだけど、そのへんどうだろう

ロマンス小説というすごいジャンルを忘れていました。

(追記その2)
上記テキストでは、ロシア語その他の言語の翻訳者も、俳壇・歌壇の世界も貶めているつもりはありません。そのように読めてしまえるテキストだとしたら、それはぼくの伝達能力の問題です。
 

*1:そんな職業本当にあるのか不明だけど、フィリップ・K・ディックというSF作家は昔やっていたらしい。