虎のように生き、老犬のように死ぬ(『ヤンコフスキー家の人々』)

ヤンコフスキー家の人々

ヤンコフスキー家の人々

★『ヤンコフスキー家の人々』(遠藤公男/著/講談社/1,995円)【→amazon

一枚の虎狩りの写真から探りあてた、ソ連の独裁権力が生んだ強制収容所ラーゲリ)という不条理と地獄―。愛と勇気と感動のノンフィクション。親日白系ロシア人事業家三代の疾風怒涛の20世紀を描き切る。

十八世紀中ごろ、ロシア帝国と朝鮮の国境近く、鹿の「袋角」を取るベンチャー・ビジネスの牧場で巨万の富を得た初代ヤンコフスキー(ミハイル)、虎狩りの腕では父をしのぐ二代目ユーリー(愛称チーグロ(=虎)パパ)、その息子の三代目ワレリーの一族の、100年以上にわたる動乱の歴史を描いた物語。日露戦争ロシア革命第二次世界大戦、戦後のスターリン統治下でのラーゲリ体験。そしてまた世界中に広がるヤンコフスキーの血を継ぐ者の壮大な話。ワレリーは旧ソ連軍の通訳を買って出たため妻と別れることになり(再会するのは40年後!)、北極圏のシベリア・極寒の地で、囚人として十数年を送る。この家族の話を書くために、文字通り世界中を旅した著者もすごいです。チーグロパパの姪・タチアナが話す伯父の死のシーン、本の中では「通訳の若い女性はあまりのことに何度も絶句した。筆者は涙をこぼす通訳を励ましながら話を聴かねばならなかった」とあとがきでは率直に書かれていますが、それがどんなであったかは本を読んでみてください。この本の後半は、ソ連という国家の下で生きるワレリーの苦難の描写がほとんどではありますが、それ以外にもちょっと日本では考えられない激動の人生が数珠繋ぎです。なんか、ものすごい本を読んでしまった、という印象。これだけの本を書いた著者が、もっと知られることを望んで、絶賛してみたい本であります。