『映画崩壊前夜』『異貌の成瀬巳喜男 映画における生態心理学の創発』『モノと男の戦後史』

本日の読みたい本・おすすめ版(2008年6月あたり)。

映画崩壊前夜

映画崩壊前夜

★『映画崩壊前夜』(蓮実重彦/著/青土社/2,310円)【→amazon
映画崩壊前夜の自覚が意識に浮上するのは、その瞬間である。実際、これらのフィルムは、かりに自分が映画でないのだとしたら、映画など存在しようもないし、そもそも存在する価値すらないと孤独につぶやいている。時間空間を超えて反復されるそのつぶやきが聞きとどけられるとき、そのときにのみ、映画はかろうじて不可視のスクリーンに向けて投影され、映画は映画であるという同語反復を音としては響かぬ波動としてあたりに行きわたらせる。その投影と波動とを無根拠に肯定する身振り―。
異貌の成瀬巳喜男

異貌の成瀬巳喜男

★『異貌の成瀬巳喜男 映画における生態心理学の創発』(榎並重行/著/洋泉社/2,940円)【→amazon
細かいカット割りとつなぎを観る者に意識させない自然さ、演技力のある俳優からも経験のない新人からも、同じく必要な演技を的確に取り出すことができる演出術、撮影、美術、照明などのスタッフとの見事な協働ぶり―これらを「職人芸」という修辞に頼るだけでは成瀬作品の真価を解き明かすことはできない。なぜなら、映画を観ることが観客の経験として残るような映画は唯一、成瀬巳喜男によってもたらされているのだから。
モノと男の戦後史

モノと男の戦後史

★『モノと男の戦後史』(石谷二郎/著 天野正子/著/吉川弘文館/2,940円)【→amazon
戦後、日本の社会は大きく変貌し、男をとりまく環境も変った。居場所(喫茶店・書斎)、身体(カツラ・バイアグラ)、表象(スーツ、社章)など、「男であること」を生み出してきたモノを通して描くもうひとつの戦後史。

読みたい本・次点。
『ソ連、中国の旅』(/岩波書店/735円)
『「死体」が語る中国文化』(樋泉克夫/著/新潮社/1,050円)
『親愛なるブリードさま 強制収容された日系二世とアメリカ人図書館司書の物語』(ジョアンヌ・オッペンハイム/著 今村亮/訳/柏書房/3,360円)
『新・文学入門 古本屋めぐりが楽しくなる』(岡崎武志/著 山本善行/著/工作舎/2,415円)
『京都学派の遺産 生と死と環境』(小川侃/編 井上克人/[ほか著]/晃洋書房/2,415円)
『カント『純粋理性批判』を読むために』(ヨハン・シュルツ/著 菅沢竜文/訳 渋谷繁明/訳 山下和也/訳/梓出版社/2,625円)
『記憶の切絵図 七十五年の回想』(志村五郎/著/筑摩書房/2,310円)
『逆臣青木幹雄』(松田賢弥/著/講談社/1,680円)
『建築家の自由 鬼頭梓と図書館建築』(鬼頭梓/著 鬼頭梓の本をつくる会/著/建築ジャーナル/1,890円)
『江戸時代の古文書を読む 天保の改革』(徳川黎明会徳川林政史研究所/監修 竹内誠/[ほか]著/東京堂出版/2,520円)
『エヴァ・宣長・日本的なるもの』(免努苦斎/著/ブイツーソリューション/1,100円)
『イタリア都市社会史入門 12世紀から16世紀まで』(斉藤寛海/編 山辺規子/編 藤内哲也/編/昭和堂/2,940円)
『落語家柳昇の寄席は毎日休みなし』(春風亭柳昇/著/うなぎ書房/1,785円)
『蘭学者川本幸民 近代の扉を開いた万能科学者の生涯』(北康利/著/PHP研究所/1,785円)
『リングサイド プロレスから見えるアメリカ文化の真実』(スコット・M.ビークマン/著 鳥見真生/訳/早川書房/1,890円)
『萌え萌えスパイ事典』(スパイ事典制作委員会/編/イーグルパブリシング/1,575円)
『法隆寺の中のギリシャ・シルクロード文化 聖徳太子関連寺院の真偽を探る』(久慈力/著/現代書館/2,100円)
『叛逆としての科学 本を語り、文化を読む22章』(フリーマン・ダイソン/[著] 柴田裕之/訳/みすず書房/3,360円)
『猫を償うに猫をもってせよ』(小谷野敦/著/白水社/1,890円)