『レッドムーン・ショック』----かっこいいロケット発射の冒頭にしびれる

 読みかけ。

レッドムーン・ショック―スプートニクと宇宙時代のはじまり

レッドムーン・ショック―スプートニクと宇宙時代のはじまり

一九五七年―アポロ11号が月面着陸に成功する一二年前、人類と宇宙の関係を変えた世界初の人工衛星スプートニク1号」が打ち上げられた。スペースシャトルや宇宙ステーションにいたる、宇宙時代の幕開けである。アメリカとソ連、それぞれの国家の威信や権力闘争に巻きこまれながら宇宙をめざす科学者たちの挑戦、フルシチョフアイゼンハワーたち政治家の思惑、軍部に渦巻く対抗心。人類最後の未踏地「宇宙」を征する栄誉は、どちらの手に…?冷戦下、米ソ宇宙開発競争の裏側で繰りひろげられた熱い人間ドラマが、当時の関係者たちの新たな証言を交えて、いきいきとよみがえる。息もつかせぬおもしろさのエンターテインメント・ノンフィクション。

 世界最初のロケット、V2号の発射シーンがものすごくかっこいいので引用してみる。まさにセンス・オブ・ワンダー。SF作家で言うならアーサー・C・クラークなみの描写力。

プロローグ  1944年9月8日
 
 ロケットは上昇しはじめた。はじめのうちはためらいがちにゆっくりと、まるで地面から離れるのを嫌がっているかのように。機体を支えていた移動式橋型起重機(カントリークレーン)から尾翼が離れるまで、たっぷり3分かかった。
 しかし今、ロケットは束縛を解かれ、自分の力を信じる気になった。すでに体は軽くなり、より強い力を感じていた。困難な最初の15メートルを上昇するためにすでに500キロ近くの推進剤(燃料と酸化剤)を消費し、物理法則の影響が出はじめたのだ。この先もロケットは燃料と酸化剤を消費して毎秒125キロずつ軽くなっていく。燃料の重さに囚われていた推進力が、徐々にロケット本体にかかりはじめる。わずか何分の1秒かで15メートルあまり上昇し、さらに短い時間でもう15メートルほど上昇した。
 最も困難なときはすぎた。負荷がいちばんかかる浮上の段階を終え、ロケットは安定してきたようだ。振動は収まり、構造とシステムにかかっていた重圧は消えた。推進力に拍車がかかり、さらに上へ上へと昇っていった。はるか下、ロケットが打ち上げられた森の空き地がみるみる小さくなっていく。発射場の燃料タンカーも輸送トレーラーも16トンのストラボクレーンも、指揮官たちを乗せた装甲トラックも、またたく間にオランダ松の天蓋の下に隠れた。
 秒速150メートル、180メートル、210メートルとロケットはスピードを上げていく。はるか下では、オランダのワッセナール郊外の楕円形の競馬場トラックの光が夕闇の中に輝いている。数秒後には、ワッセナールも含むハーグ大都市圏全体の夜景が広がった。それでもなお、ロケットはオランダの海岸上空を垂直に上昇しつづけた。内部の脆弱なアルミニウム製燃料タンクが破裂しないよう、機体をきっちり90度に保たなければならないからだ。軽量化をはかって、燃料ケースはきわめて薄くつくられており、垂直の状態でしか推進剤の8600キロという重量に耐えられなかった。この段階でロケットが少しでも傾いたり横揺れしたりして中の燃料も傾くと、タンクは破裂し、爆発してしまう。
 ロケットには体を軽くするための時間が必要だった。そのためさらに上昇をつづけた。通過したあとには白い雲が筋を描いた。中では580馬力の過酸化水素スチームタービンが、3184個の注入口を通して燃料を燃焼室へと送っている。回転式の電気点火プラグが、エチルアルコール(燃料)と液体酸素(酸化剤)の霧状の混合物に点火し、摂氏2650度の噴出ガスを発生させる。この超高温の排気ガスの勢いで、ロケットは速度を増すのだ。現在、上昇速度は秒速330メートル、高度は3.2キロに達していた。
 はるか下では、ナチス親衛隊(SS)のハンス・カムラー少将率いる第485砲兵大隊第2中隊の117人の砲兵の耳に、突然、天空から巨大な鞭を打つような音が届いた。見上げるまでもない。たった今ロケットが音速の壁を超えたのだ。ロケットはみずからの爆風から逃れるかのごとく、いっそう加速しつづけた。
 ロケットが離陸して25秒が経過した。ここまでの段階で、ロケットは2700キロほど軽くなっていた。ロケットを覆う金属板の温度は、燃料が注入された時点では液体酸素により冷却されて摂氏零下183度だったが、現在は149度へと急上昇しており、いっぽうロケットの鉄の胴体と内側の骨組みにかかる圧力は重力のほぼ4倍に増大していた。しかし、なにより重要なのは、搭載されたふたつの繊細な燃料タンクから3分の1以上の燃料が排出されたということで、ようやくロケットは安全に向きを変えられるようになった。
 ついにロケットは自由になった。厳密な垂直の軌道から解放されたことに勇気づけられたかのように、軸を中心に優美に回転しながら、西に進路を変え、細長い紡錘形の機体を45度に傾けてさらに速度と高度を上げていった。16キロ下では、オランダの海岸線が視界から消え、黒々とした北海が見えてきた。ロケットは今や音速の2倍のスピードで飛び、依然として上昇を続けていた。

 よりくわしい情報は、以下のところを参考に。
V2ROCKET.COM - The A-4/V-2 Resource Site - The V-2 Rocket