原発による福島の今後の被害について間違ったデータにもとづく判断をしないために

 今後10年からそれ以上にわたって、統計データから「福島がこんなにひどい状況になった」という人・団体が出てくることを懸念して、メモしておきます。
 
1・その統計は、過去の日本から推定される未来の日本としてどうなのか
 たとえば、「ガンで死ぬ人の率」は、「他の病気で死ぬ人の率」がどんどん減っているため、相対的に増えています。「福島でガンで死ぬ人の率が、原発事故以後増えた」と言い始めた人がいた場合は、同年度における「福島以外の他の地方」でのガン死亡率との比較が必要です。
 また、少子化は日本全体の問題で、1972年以降一貫して出生率は減少しています。「福島の出生率が減少した」と言い始めた人がいた場合は、同年度における「福島以外の他の地方」での出生率との比較が必要です。
 
2・その統計は、現在の日本での水準としてはどうなのか
 子供の甲状腺ガン・小児白血病・奇形は、被曝が原因でなくても一定の数(%)で生じる病気です。
 日本での悪性腫瘍の発生率は15才以下の子ども1万人に対し1.1人、このうち甲状腺ガンの割合は2.5%。2011年4月の、「15歳未満の人口」は推計1693万人。ざっくり1862人が悪性腫瘍になり、福島原発事故関係なくても、46人が甲状腺ガンになります福島県の2010年4月の推計で280,965人。ざっくり31人が悪性腫瘍になり、福島原発事故関係なくても、1人以下が甲状腺ガンになります
 小児白血病の発症率は10万人に3〜5人。これも福島に当てはめると、「8〜14人」という発生率が、現在の日本の水準になります。
 同じく先天性奇形は(その定義が難しいのですが)、「横浜市立大学先天異常モニタリングセンター」の調べ(2004年)で1.80%ぐらい。これは幼児期に亡くなられる子供もいたりするので「15歳未満の人口」とかの数字は出しにくいかも。
 
3・その統計は、統計値として信頼できるに十分な数を元にしているか
 「2」で述べたとおりの数字をもとに、福島県の子供の甲状腺ガンが「2人」になったら、統計的には「2倍以上の増加」になります。「福島原発のせいでこんなひどいことに」と言うためには、元の数値が小さすぎるので、「5人」(率的には5倍以上の増加)でないと俺には「統計的に有意な数値」のようには思えません。(追記:「20倍」「50倍」を「2倍」「5倍」に直しました。何計算間違ってるんだ俺)
 同じく、小児白血病も、これは基本人数が少し多いので、「倍(16〜28人)」ぐらいになると、意味のある数値と言えるかもしれません。
 
4・何かの増加には、別の要因が働いているのではないか。
 平均寿命を押し下げるもの(一番のリスク)は、貧困です。胎児に対する妊婦のストレスは、個人差がありすぎて数値が見えないのですが、ないとは言えない程度にはあります福島県民に対する風評被害で、婚姻率が下がる可能性もあります。福島県全体の、いろいろな生活基準が低下・悪化して、その低下・悪化率が他府県よりひどい場合は、他府県よりひどい数値が出るかも知れません。それは広義の「福島原発のせい」ではありますが、「原発由来の放射性物質の、物質の影響」ではないかも知れません。
 
5・海外の「○○が増えた」という統計は、十分に信頼できるか
 チェルノブイリの統計における、ストレス・生活環境の悪化(貧困化)・少子高齢化の影響は、十分に数値化されているとは言えないし、類推以上のもの以上に仕上げるのは難しいものがあります。かつては「劣化ウラン弾の影響でイラクの子供がこんな可哀想なことに」というデータに関して、「過去のイラクとの比較」「現在の日本との比較」で、「全然可哀想な数値ではない」「他の要因があるのでは」というようなことを、ぼくの日記で述べたこともありました(イラクの子どもたちの白血病(小児白血病)の増加について)。

ということで、気をつけたいのは、こんな感じです。
1・福島原発あってもなくても、生きるのが大変な子供は一定の数だけいる。
2・生きるのが大変な人の数は、これからどんどん増えてくる。
3・反原発プロパガンダがあったとしたら、そのデータをいろいろな角度からちゃんと見たり、いろいろな人の話を聞く。