朝日新聞1955年4月27日の記事「悪書追放 出版界、自粛へ動く 近く倫理化に実行委」

 悪書追放運動当時の新聞テキストから。誤字とか読み間違いはお許しください。
 だらだらと当時の新聞記事の事実報道を載せてみます。

悪書追放 出版界、自粛へ動く 近く倫理化に実行委
 
 さる二十日、東京神田の教育会館で母親たちが出版業者にもの申した「子どもを悪書から守るための懇談会」を頂点に、警視庁も断固悪書の大量摘発に乗出す決意を固めるなど「不良出版物」追放の声は、出版界に深刻な“自粛旋風”をまき起している。「世論にたたかれ、おまけに法による取締りの線をちらつかされては、うっかりしておれない」というのが業者間の声。母親たちの投じた一石が出版界に「出版デフレ」以後最大の波紋を描いた形。都内の業界では出版-取次-小売の全ルートを通じる出版浄化運動に乗出している。
 
避けたい検閲の立法化
 
 終戦直後の出版ブームで全国に三千を越えた出版業者は乱立整理期を経てその約三分の一に減少、ようやく立直り期に入ったところだった。業者の中には「雑誌も商品だから、需要は無視できない」「俗悪さは社会悪の反映だから、いちがいに業者だけを責めるのは当らぬ」といった議論もちらほらあるが、「ひどい雑誌があるという事実は業者も一様に感じているので、全体として大きく自粛の方向に向っている」(日本出版協会、川崎専務理事談)という。
 セックス雑誌の王座をしめていた某誌が六月号限り廃刊を決定したのもこの現われだし、出版業者の連絡機関である日本出版協会では近日中に「出版倫理化実行委員会」なるものを結成して取次、小売両機関と合同の不良出版物締め出し計画を進めるという。同協会の話では「企画を大急ぎで変更した雑誌も二、三ある。問題は悪書の線をどこで引くかという点で、協会にその基準を問合せてくる出版業者が少なくない」というから、業界の自粛ぶりも相当盛り上りつつあるようだ。
 小売業者の間でも俗悪な出版物はボイコットしようという動きがある。出版物小売組合の中野、杉並支部支部長、光南堂書店前田正平氏)は支部月報に「各出版社に与う」というゲキ文を作り「もう一度手にとって静かに考えて下さい」と全都支部長会議で発表して、全小売業者に訴える計画だという。「こんなもの、ひどいなと思いながら、商売だから売っているのが現状です。小売業者だって信念はもってることを示してもいい時期です。第一着手として、ひどいものは店の方すみに積んで、できるだけお客さんの目に触れないようにします」と同支部長はいっている。
 取次業者の連合体「出版取次懇話会」でも出版ルート三者共同に協力の気構えをみせて悪書追放の委員を選び出し、いまから具体案を練ろうとの計画。この動きに出版美術家連盟でも二十五日夜、神田の地下鉄ビルに集って「出版物の内容検討の会」を開いた。ゾッキ本屋が多く参加している全国出版物卸商協同組合でも「発行責任者とその所在の不明なものは一切扱わない」むね発表、悪書追放の波紋はますますひろがっていく。
 しかし、この自粛運動の背景には「検閲の立法化」という戦前なみの圧迫を、事前に避けようという気持があることは争えない。出版協会の会合などでも「法でしばられる不面目を招くな」という議論が並行して上っており、一方には「読者の方でもエロ、グロを排斥するだけの良識を育ててもらいたい」という希望が業界全体にみられる。

 このあたりの動きを見ると、悪書=漫画というわけでもない感じがします。「不良出版物」ってまあエロ・グロ系ですかね。どこらへんで「ほぼ漫画」になって伝わっているかというと、やっぱ手塚治虫のせいかな? あとでどんどん関係テキスト出して来ますけど、児童雑誌バッシングというのは確かに存在したみたいなんですが、手塚治虫の漫画がもっぱら叩かれていた、ということはありませんでした。
 
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