「チロヌップのきつね」を学校ではどう教えているか

↓これは以下の記述の続きです
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20030904#p1
関連図書として実は『文学教材の読み方指導・11 チロヌップのきつねの授業』(田宮輝夫・桐書房)という本があります。国語教育というのは小学校の場合は、漢字の読み方・書き方や、よく分からない語句の意味を知る、ぐらいでもいいと思ったりするんですが、文学作品なんでそれなりの観賞をして、感想を持たなければならないみたいですね。で、この作品をていねいにクラスの子に読ませたあとの、先生のまとめ。p208-209。


教師 だれが、四ひきの親子ぎつねを殺したの。
子どもたち 兵隊たち。北の海を守る兵隊たち。
義昭 海を守るんじゃなくて、親子ぎつねを殺しにきたみたいだ。
教師 なんで兵隊たちは、北の海にいたの。
一裕 北の海を守るため。
直人 北の海を守る兵隊だから。
教師 なぜ、北の海を守るの。
伸明 戦争が激しくなってきたから。
義昭 戦争だから。
教師 戦争が激しくなったから、兵隊たちがいたんだね。もう一ぺん聞くよ。親子ぎつねを殺したのはだれだ。(きっぱりと)
子どもたち 兵隊たち。
教師 親子ぎつねを殺したのは兵隊たちだ。(間をおいてから)では、親子ぎつねを殺したのは、なんだ。
理恵 兵隊たち。
教師 殺したのは兵隊たちだ。殺したのは何か。
子どもたち ……。
教師 殺したのは兵隊だ。殺したのは何か。(子どもたち、考えこむ。わたしはだまって子どもたちを見る)
千苗美 わかりました。
教師 宮林(千苗美)さん。
千苗美 戦争です。(子どもたち、「ああ、そうか」と口々にいう)
教師 直接、殺したのは兵隊たちだ。だけど、戦争がなければ、北の海を守る兵隊も必要ないわけだ。だから、何が親子ぎつねを殺したのかを考えると。
子どもたち 戦争。(いっせいにいう)
違うだろ
実際に兵士がキツネを銃で殺していたかは不明です(それはフィクションです)し、キツネワナを仕掛けたのはロシア人の密猟者(これはノンフィクションらしいです)。だから、兵隊がいなくてもキツネたちは殺されています。それは、この話の続編である『チヌロップのにじ』にも書かれている通りです。続編では、いつのまにか日本の領土ではなくなってしまったらしいチヌロップで、ばりばりキツネは狩られまくってます。
しかし、このようなことを学校の授業で、教師が教えているというような状況では、先生の言うことを正しいと思っている優等生的な生徒・児童ほど「せんそうはいやだ」とかいう感想を持つでしょうね。そりゃ、戦争は嫌なことかもしれませんが、『チヌロップのきつね』を読むことによって得られる感想じゃないでしょう。著者も絵本のあとがきでこう言ってます。

 最近、環境問題がしきりに取り上げられるようになり、ほろびゆく自然、ほろびゆく動物に対する保護が、声を大にして叫ばれています。
 幼い読者たちに、この物語から、単に狐の親子の愛情の強さだけでなく、さらに深い大きなものをくみとってもらえたら、作者としては望外の喜びです。
そこで、俺としてはもう一つの『チヌロップのきつね』を考えてみたいです。

銃を撃った兵士は面白半分だったのだが、大事な兵器をそのようなことに使ったため上官(少尉ぐらいの人にしましょうか)は激怒。亡くなったキツネ(父と子供)のためにお墓を作ったあと、訓練もかねて島中に設置された密猟者のキツネワナを取り除く命令をする。で、その過程で母娘のキツネが見つかり、上官は傷が治るまでめんどうを見る。戦争が終わって何年かして、ふたたびその島を訪れた少尉は、キツネの墓のまわりにきつねざくらが咲いているのを見る。
しかしやはり「いい兵隊の人」というのが出てくると、学校の先生的には不満ですか。まぁ、何だったらその人にも子供と孫がいて、子供はNPOで対人地雷の撤去を世界中でやっている、なんて設定のエンディングにでもしとけばよさそうな。