映画『ゆれる』は、『時をかける少女』の1.5倍ぐらい面白かった

ということで、オダギリジョー主演の映画『ゆれる』をようやく見て来ましたが、時をかける少女』の1.5倍ぐらい面白かったのでぼくの日記で宣伝しておきます。
まだまだあちこちで公開中だし、別に夏休みに見なくてもいい映画なので*1、ぜひ見てください。地味にヒットしているので、DVDになるのはまだ少し先になるかもです。
他の例を挙げると、『スーパーマン リターンズ』の100分の1ぐらいしか制作費をかけていないと思うんだけど、それの10倍ぐらい面白かったです。
ゆ れ る(公式サイト)
だいたい場所によっては年末映画がはじまる12月はじめぐらいまでやってます。
ゆ れ る | 上映劇場
あらすじは、ネタバラにならない程度に言うと、というか、以下のところに書いてありますが、
ゆれる - goo 映画

写真家の猛は、母の一周忌で帰郷した。父と折り合いの悪い彼だが、温和な兄・稔とは良好な関係を保っている。翌日、猛は稔、そして幼馴染の智恵子と渓谷へと向かった。智恵子が見せる「一緒に東京へ行きたい」という態度をはぐらかして、一人で自然へカメラを向ける猛。そんな彼がふと吊橋を見上げた時、橋の上にもめている様子の稔と智恵子がいた。そして次の瞬間、そこには谷底へ落ちた智恵子に混乱する稔の姿だけがあった…。

時をかける少女』で言うなら、踏切で誰かが死んだあとの話(ネタバラなので色を変えてみました)を、SFテイスト抜きでオトナの物語にしてみた、という感じでしょうか。
しかし、「作品ユーザーレビュー」は208件ですか。
Yahoo!映画 - ゆれる - 作品ユーザーレビュー
時をかける少女』は1344件。
Yahoo!映画 - 時をかける少女 - 作品ユーザーレビュー
「ゆれる - goo 映画」のあらすじの続きなんですが、彼女(智恵子)はなぜ落ちたのか(事件なのか事故なのか)、兄(稔)は彼女を落としたのか、だとしたらその動機は、という法廷での展開を軸に、兄・稔と弟・猛の関係、田舎で暮らすさえないガソリンスタンドをやっている兄と、都会で新進カメラマンとして著名になりつつある弟との関係(心理的葛藤)、それにその前の世代の、「田舎の弟(稔・猛の父である勇)」と、「都会の兄(弁護士で、稔の弁護を引き受ける修)」の話が裏でからんでくるわけです。
橋の上で何が起きたか、は、「藪の中」的な感じではなく、かなりはっきりとわかります。弟・猛が理解したのは、「昔の8ミリフィルム」を見てようやく、なわけですが*2
まぁ他にも、実際には都会のカメラマンの実情はこんなもんじゃないだろ、と、つまらないディティールで思ったり*3、映画的にこの監督(西川美和さん)、オダギリジョーの顔のアップが撮りたくて仕方なかったんだろうなぁ、と思ったりするわけですが*4、この脚本と映画を作った人(同一人物の西川美和さん)が作る作品は、今後信用しても大丈夫だろうな、とつくづく思った映画でした。企画の是枝裕和さんは、前から少し気になっていた人ではありましたが。
あとは、くだらないことを夢想してみます。
(ちょっとネタバラがあるので注意)
三十代初めで成功する(その業界でトップになれる)職業というと、カメラマンは厳しいのでは、と思うのです。やはり漫画家ぐらいしか思い浮かばないのですね。徒弟・師弟関係に比較的乏しくて、コネクション抜きの実力で勝負できる職業、というと。まぁ別に漫画家は「都会」に住む必要はあまりありませんが。
で、母親の一周忌に、ベレー帽で行く主人公。一応ヒゲとメガネ。ああ、これじゃイメージが「オダギリジョー」じゃなくて「竹熊健太郎」だよ! 法事に遅れて、「お、お呼びでない? お呼びでない」と思わず口走る主人公。親族一同ずっこける。坊主の役はカメオ出演植木等ですか。その後の酒席でキレる父親を「まぁまぁ、いいからいいから」と止める役にもちょうどいい感じです。
ヒロインのほうは、当然オタク女ですな。主人公が描いた漫画の単行本が、ヒロインの寝室のベッド脇に置いてあって、オダギリものすごく嫌な顔になる。
えーと、橋の上の演技は「仮面ライダー東映特撮映画系アクション」で、ヒロインはキック入れる(でもそれだと兄のほうが川に落ちてしまうな)。そこへ主人公が、兄を助けにあらわれたりすると、「仮面ライダークウガ」と区別つかなくなります。そうだよ、ヒロインは敵の組織の工作員(下っぱ)だったんだよ!
(以上ネタバラ終わり)
もう本当、ある種のハリウッド映画*5に飽きている人には、絶対おすすめなのです。ていうか、別に普通にアメリカにシナリオ売れるような気がする。周りにガソリンスタンドが1軒しかないような田舎に兄が住み、弟は都会(ニューヨークとかロサンゼルス)で新進のカメラマンのプレイボーイ。そんな田舎が嫌で出て行きたいヒロイン、という構図。さらに裁判シーン。この手のハリウッド映画も、けっこうありそうです。アメリカ風にするのなら、「兄弟の葛藤・和解」ではなく「父子の葛藤・和解」になっちゃうかもしれませんが。
1960年代の、悪役が主人公でも大丈夫なヌーベルバーグの時代だったら、多分カメラマン・猛はもっと「悪い奴」でも全然問題はなかったんでしょうが、そこらへんが21世紀の日本の映画的限界でしょうか。
最後になりましたが、役者の演技もすごいです。検事役の木村祐一は、あの木村祐一だというイメージさえなければ、本当に「嫌な検事」にしか見えないし、兄の香川照之、父の伊武雅刀など、とにかくみんな、複雑なキャラクターを達者に演じているのです。
ちなみに、これを本(書籍)にした話は、映画ではあまり語られなかった弁護士・修の家庭とか、稔・猛兄弟の「母」に関して語られるエピソードがあったりして、副読本としては最適です。映画を見ていない人が、先に読んでみることはおすすめしませんが…。
参考リンク。
『ゆれる』オダギリジョー 単独インタビュー - シネマトゥデイ
Movie Note Vol.34 『ゆれる』監督 西川美和 インタビュー:CyberCREA
『ゆれる』西川美和監督 記者会見 | kansai.com
ゆれる(書籍紹介。アマゾン・アフィリエイトつき)
 

*1:「事件」が起きた日付の設定は「10月2日」

*2:映画見るほうとしては「早く8ミリみろよ、どうせ伏線だろ」とイライラします。

*3:たとえば、ぼくの知っている限りでは、商業カメラマンの徒弟システムはものすごく厳しく、アートなカメラマンは貧乏です。

*4:アングル的には、もう何センチか引いて撮ってもいいのでは、と思うようなカットがなきにしもあらず。ただこれは「印象」なので、監督自らが「それは具体的にどのシーンでしょうか」と聞いてきたらちゃんと答えられるようDVDが出たら買おう、とメモ。とはいえ映画のスクリーンとモニターの画面とでは、受ける印象が違うので、DVDで見たら全然気にならなかった、という結果にもなりそうです。

*5:いい奴と悪い奴が戦って、最後にはいい奴が勝つみたいな映画。