ものすごく怖い映画『アラバマ物語』

アラバマ物語 - goo 映画
 
社会派ヒューマン・ドラマだとか、グレゴリー・ペックアメリカの良心が、とか、どこをどうこの映画を見ていた人が評価したのか「感想の流布」というのは恐ろしいもので、ぼくもこの映画を見るのにはそういう先入観があったんですが、実際に見てみるとものすごく怖い、『サイコ』とか『ミスティック・リバー』とかなんかより圧倒的にこわいホラー映画でした。もちろん、前もってそういう知識があればそんなでもないんでしょうが、冒頭からしてすごい。
人形とかガラス玉とか筆記用具とかが入っている箱を誰かが開けて(主人公の女の子だというのはあとでわかります)、その中からクレヨンで「TO KILL A MOCKINGBIRD(マネシツグミを殺すこと)」というイントロ。それに続くナレーションは、「1932年、メイカムは寂しく古ぼけた町になっていた」と、その年の夏の紹介。白黒で明暗がはっきりしたアメリカの夏の田舎町が紹介されます。で、主人公の住んでいる家のとなりに狂人(ということになっている人間)が閉じ込められている。話の本筋とは関係なく、狂犬病の犬が出てきて主人公の父親に撃ち殺される。スティーヴン・キングかよこれは。
Wikipediaの記述によると原作の小説のほうは「Southern_Gothic」というアメリカの文学ジャンルに属しているそうで、「William Faulkner, Flannery O'Connor, Harry Crews, Lee Smith, Lewis Nordan, Barry Hannah, Carson McCullers, Erskine Caldwell, Eudora Welty, Harper Lee, Truman Capote, Tennessee Williams, and Cormac McCarthy」とかが似たような作家だとか。フォークナーというのはなんかわかるなぁ。アメリカ南部を舞台にした、ちょっと頭のおかしい人がたくさん出てくる異常小説。
確かに、グレゴリー・ペックは黒人の弁護をするし、社会派ドラマでもあるんですが、その黒人は有罪になって逃亡をしようとしたあげく殺されるし、主人公の女の子はハロウィンにひどい目に会う。このシーンも含めて、ちょっとネタバレしないように伝えるのは難しいんですが、「アメリカの南部」の、特に夏の嫌らしさが映画を作った人以上に日本人には、スーパーナチュラルな物語の現場として、リアリティのなさが怖さをあおる要素になっていると感じました。
しかしなんでネットで検索しても、これはゴシック小説のスタイルを持ったホラー映画だと教えてくれる人は多くなかったんだろう。そうと知ってたらもっと早く見てたのに。名作。
 
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