木下惠介作品全部見るよ(『花咲く港』と『陸軍』の行軍シーン)

dvdボックスで全49作の監督作品が見られるのがありがたい。
一応こんなのにリンクしておきますが、

木下惠介 DVD-BOX 第1集

木下惠介 DVD-BOX 第1集

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 普通に2万円でDVDショップに売ってるので、1割引の10%ポイント還元だと、えーと、16200円ぐらいで買えます。だいたい1本2000円ぐらいなので、そんなに高いという感じではないかと思う。
 
今日は『花咲く港』を見ました。どこを舞台にしたか今イチ不明な南の島(でも浜松の中田島砂丘でのロケは、何となくわかる)で、二人の詐欺師が島民の戦意高揚に釣られて本当に船を作ってしまうという、能天気映画(非・反戦)。でも、米軍に船を沈められて死人が出る、などという最後の展開は、隠された反戦主張なのか。
 
馬車で詐欺師(島で造船所を作ろうとして挫折した篤志家の遺児のフリをする設定)を迎えにいくシーンで、島の宿屋を商う女性が「ペナン」での思い出シーンを話しながらトンネルの中になると、その背景に異国の街が写る。唖然。こんな映画の撮り方したら、今なら前衛なんだけど、話の内容は全然普通。カット割りというかシーン作りが妙にコメディでモダンなのには驚いた。映画公開は戦争中の昭和18年の夏。同じ年の春に黒澤明が新人監督としてデビューしてまして、二人は終生のライバルになるわけです。
 
で、せっかくなので、『天才監督木下惠介』(長部 日出雄 著/新潮社/2100円)(amazon)を読んだときに興味を持った、『陸軍』の最後のシーンだけちょい見をする。
 
これはさらに唖然。というより、どういう表現をしたらいいのかわからないけど、とにかくすごい。
 
『天才監督木下惠介』のテキストからパラフレーズすると、陸軍の出陣の行進と、それを激励する市民、その中の息子を延々とどこまでも追う母親(田中絹代)の、茫然とするぐらい人がたくさん出てくるモブ・シーン。引用します。p161-162

 なにしろ「陸軍省後援」というお墨つきだから、撮影は、福岡の中心の大通りを完全に通行止めにし、西部軍司令部と市内の大日本国防婦人会や国民学校(小学校)の全面的な協力のもとにおこなわれた。
 広い通りの両側を、びっしりと埋めた何千人もの人垣が、日の丸の小旗を打ち振って、熱狂的な歓呼の声を送るなか、整然と隊伍を組んだ出征兵士の列が、果てが知れないほど長く連なって行進して来るのを、ビルから俯瞰して撮った画面のスケールの壮大さには、だれもが感嘆せずにおられまい。

 ということで、ぼくも感嘆しました。
 さらにすごいのは、この映画のエキストラで出た「113連隊」の800名強は、その後実際にマニラ(レイテ・ルソン)に行ってほとんど玉砕。祖国に帰還できたのは数十名(1割ぐらい)というノンフィクションの部分で、要するにこの映画、最後の10分は「遺影映画」でもあったりするわけです。
 幻の名画(だったらしい)『笛吹川』でも、武田の最後の軍隊が敗退していくあとを、これは高峰秀子が老婆役で延々とついていくんですが、でもってこっちのほうは明らかに反戦映画なんですが、なんかこういう、今ではあまり見られない画面作りのすごさは、木下惠介だからなのか、それともどの監督も同じようなシーンが作れるほど当時の映画は金と技術があったのか、比較対象するような画像を知らないのでちょっと知りたいと思いました。
 カット割り・シーン作り(構成)、つまりどの場面をどういう風に撮るか、というのは映画監督の文法だと思うんですが、商業的なものを意識しながらヘン、というよりモダン? な文法を入れてみる、という木下惠介の手法にはちょっと驚きます。これが鈴木清順なら驚かないんだけれども、ちゃんと人の感動を盛り上げるために使いこなしている、商業映画監督としての見事さが不思議です。今の外国の映画監督ならジェームズ・キャメロンという風情でしょうか。あるいはデ・パルマかディビッド・リンチかサム・ライミかまぁ、そんな感じ。