『陸軍』(木下惠介)

 木下惠介の第4作。引き続き戦時中の作品(1944年公開)。陸軍の全面協力で作られた映画で、最後の出征シーンのマス・モブシーンのあまりのすごさに、そこだけ3回ほど立て続けに見てしまいましたが、で、そこだけ見ると母と子の話なんですが、陸軍大尉で中国に行きながら体をこわして戦争に参加できなかった父親(その親=祖父は山県有朋奇兵隊時代の知り合い)という、軍人でありながら商人として生きざるを得なかった人の話でもあったのだった。おまけに、上等兵の息子の下に、さらに次男がいるし。
 
 通しで見ることを推奨しますが、圧倒されたい人は、母親(田中絹代。なんかこの映画ではそれなりに美人に見える)が、家庭の雑用を終えて一段落して「一、軍人は忠節を尽くすを本分とすべし」ではじまる「軍人勅諭」5条を暗誦する長ロングのシーンから見るといいです。本当に、何度でも見たくなる。よくまぁ戦時中の、それも負けいくさのさなかに、こんなに贅沢な映画が作れたもんだと、つくづく思います。エキストラの実際の陸軍兵800人強は、その9割がその後戦死してしまうという、恐るべき遺影映画であることも記しておこう。