2007年に読んで面白かった本ベスト5(ノンフィクションだけ)

 2007年ももうそろそろ終わりなので、今年読んで面白かった本を紹介しておきます。ノンフィクション系5冊だけ。
★『無意味なものと不気味なもの』(春日武彦/著/文芸春秋/1,980円)【→amazon

本来のメッセージとは微妙に食い違った部分においてひそやかに違和感を与え続けてきた小説たち。奇妙な方法論を用いて世界を分節してみせた物語たち。わたしの孤独感をますます深めてきた文章の数々。本書は、そのような小説について、あえて個人的な記憶や体験を織り込みつつ論じたものである。

 異形・奇想の小説を紹介しながら、自己の「異体験」を語る、異色づくしの読書案内。N・ホーソーン『牧師の黒のベール』という、ある日を境に死ぬまで顔をベールで覆った生活をした牧師の話(小説です)を筆頭に、小説に込められたメッセージ(作者が伝えたかったもの)の、あまりのヘンテコぶりである種めまいを感じさせる作品群を通して、物語・想像力の豊潤さを、もっぱら不気味方面で味あわせてくれた一冊。著者の語り(文体)も含めて、すばらしいとしか言いようがない異能ぶり。



★『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(松永 和紀 著/光文社/777円)【→amazon

世界に氾濫するトンデモ科学報道。納豆ダイエット捏造騒動を機に健康情報番組の問題点は知られるようになってきたが、テレビを批判する新聞や週刊誌にも、あやしい健康情報が山ほどある。そこには、センセーショナルな話題に引っ張られるメディアの構造、記者・取材者の不勉強や勘違い、思い込み、そして、それを利用する企業や市民団体など、さまざまな要素が絡んでいる。本書では、さまざまな具体例をもとにメディア・バイアスの構造を解き明かし、科学情報の真贋の見極め方、リスク評価の視点を解説する。

 これについては以下の日記で言及ずみ。
『メディア・バイアス』と「科学報道を見破る十カ条」



★『世界を変えた6つの飲み物 ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、紅茶、コーラが語るもうひとつの歴史』(トム・スタンデージ/著 新井崇嗣/訳/インターシフト/2,415円)【→amazon

ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、紅茶、コカ・コーラが語る熱情と覚醒の世界史。もし、これらの飲み物がなかったら、エジプトのピラミッドも、ギリシア哲学も、アメリカの独立も、フランスの市民革命、イギリスの産業革命・金融革命も形を変えていたかもしれない。ささやかな飲み物が、人類を駆り立て、歴史をつねに動かした、その大いなる秘密が明かされる。

 各飲料の歴史的役割とか、その昔はどういう風に扱われていたか、に関してのウンチクが、それはどこまで本当なのかよくわからないままどんどん読めてしまう楽しい本だった。もう少し掘り下げたくなる気持ちもありますが、読み流してもなんか、いくつかは心に残るようなエピソードがありますな。



★『〈ポストモダン〉とは何だったのか』(本上 まもる 著/PHP研究所/756円)【→amazon

1983年、当時二〇代であった浅田彰の『構造と力』がベストセラーになり、フランス現代思想を源流にもつポストモダン思想が日本でもてはやされた。しかし、ニューアカデミズムと呼ばれたその思想は、相対主義の烙印を押され、まもなく世間一般から忘れられてしまう。ニューアカは一時の流行にすぎなかったのか?じつは、成熟した日本社会の見取図を描ける唯一の思想として、まったく古びていないのでは?浅田彰柄谷行人東浩紀福田和也…日本におけるポストモダン思想の潮流を再検討する。

 心理学・社会学・哲学その他のあらゆる分野においてブームだったポストモダン的思想を総論的かつ非党派的に分析・紹介しながら、単なる回顧以外の視点で「現在」の、その遺産というかグダグダにしてしまった堆積物をいとおしむ。ニヒリストと動物が闊歩する時代に、改めて何かについてニヒル・シニカルではない視点を選ぼうと思ったときのための読書案内というか羅針盤的書物。新書なのでずんずん読めるけど、密度は濃いよ。



★『アフリカにょろり旅』(青山潤/著/講談社/1,680円)【→amazon

世界で初めて、ニホンウナギの産卵場をほぼ特定した東京大学海洋研究所の「ウナギグループ」。このたび、研究員の著者に下った指令は、ウナギ全18種類中、唯一まだ採集されていない種「ラビアータ」を捕獲することだった。―ドイツや台湾の研究チームを出し抜くため、海洋研のターミネーターはアフリカへ。

 これについては以下の日記で言及ずみ。
アフリカにウナギを捕まえにいく人の話(『アフリカにょろり旅』)



 その他には、こんなのが印象に残ってました。
★『星新一 一〇〇一話をつくった人』(最相 葉月 著/新潮社/2,415円)
★『読書通-知の巨人に出会う愉しみ』(谷沢 永一 著/学習研究社/777円)
★『アニメ作家としての手塚治虫-その軌跡と本』(津堅 信之 著/エヌ・ティ・ティ出版/2,520円)
★『音楽革命論 クラシックの壁をぶち壊せ!!』(玉木 宏樹 著/出版芸術社/1,890円)
★『団塊諸君一人旅はいいぞ!』(森哲志/著/朝日新聞社/1,575円)
 来年はもっと本の感想を書いておくことにしよう。