『サクリファイス』----まるでエイリアンの殺人事件のように読む

 ミステリーを読んだな、という気にさせてくれる作品でした。

サクリファイス

サクリファイス

★『サクリファイス』(近藤 史恵 著/新潮社/1575円)【→amazon
 日本ではあまり一般的認知度に乏しい自転車のロードレースを題材にした物語。ミステリーなので人が死んだり犯人がいたりあれこれあるわけですが、「エース」とそれをサポートする「アシスト」、およびそれらの駆け引きとかレース展開とか、よく知らない状況設定ががっしり組まれていて、ぼくにはまるでエイリアン(異なる生活空間を持つ人たち)の間に起きる犯罪を扱った小説を読んでいる、というか、SFミステリーを読んでいるような気になって、妙な気分で楽しめた本でした。これで「自転車族」の生態系に関するちょっとした理解もできるぞ、というような。基本はそんなわけで、ミステリーというより青春スポーツ小説(ホモ・テイストは、ソーシャルな部分も含めて少ないと思う)なのに、構造はミステリー。登場人物、特に死んじゃう人が残すメッセージが強烈すぎて、感動のキモに引きずられすぎますが、話としては長めの短編(中編)としてまとめるといいような出来に思えるのが少し物足りない。それが特に構造の二段オチ部分の、二段目の弱さ(若干ネタバレ注意で脚注→*1)に感じてしまうのが、もったいない、という感じですか。とにかく本当、読みはじめたらすぐ読めてしまうのですね。今のミステリーとしては中途半端な長さなのが気になるわけです。どうするとどうなるんだろうなぁ。たとえば明らかに主人公のライバル・キャラとして立たせようと思っているキャラ(名前は「伊庭」という人)をもう少し複雑に話に絡めるとか、レース展開を含めて各キャラ描写のボリュームをつけるとか、ありそうなんだけど、この奇跡的な読みやすさも捨てがたい。
 

*1:素人考えでも、レース中に第三者が差し出す飲食物をそんなに簡単に口にするか、とか、あの飲食物にナニをナニするのは難しいだろう、とか