『世界屠畜紀行』----肉食ってる人は必読

 前から気になっていて、読もうと思ってたんだ。

世界屠畜紀行

世界屠畜紀行

★『世界屠畜紀行』(内沢旬子/著/解放出版社/2,310円)【→amazon

「食べるために動物を殺すことを可哀相と思ったり、屠畜に従事する人を残酷と感じる文化は、日本だけなの?」屠畜という営みへの情熱を胸に、アメリカ、インド海外数カ国を回り、屠畜現場をスケッチ!! 国内では東京の芝浦屠場と沖縄をルポ。「動物が肉になるまで」の工程を緻密なイラストで描く。

 牛・豚・羊・ラクダなど、世界各国の「屠畜」をめぐる風俗などについて絵入りで紹介。絵に添付されているテキスト(書き文字)が老眼*1のぼくにはつらいので、一部読んでなかったりするんですが、全体的に面白かった。この話をするとどうしてもグロとか「差別」とかの話は回避できないんですが(出版社もそういう出版社だし)、それに関する会話のやりとりは考えさせられるものがありました。
 以下のところを参考に。
『差別』という日本語、わかりますか(from『世界屠畜紀行』)
 もう一つ例を追加しておくよ。アメリカの、ちょっとリベラルな人たちとのやりとり。著者の趣味である工芸製本のワークショップ教室で。p352

 やりきれない気分でいると、一人の女性から「それで、ラボック(注:テキサス州北西部の町。大規模な屠畜工場がある)で得たものは?」と聞かれたんで、くらえとばかりに「ええ、これを習いました」と言って右手の人差し指と親指を直角にして、おでこにピシリとあて(相手にはLの字に見える)「LOOSERRRRR!!!」とやってしまった。もともとはアメリカンフットボールの試合で使われたゼスチュアで、「負け組」を意味する。ジョー(注:著者をアメリカに招待した青年)の妹エミリーから教わったのだ。
 みなさんの顔が凍りつく。あとから思うに、彼女たちは「取材」で大規模屠畜場に行くモノカキなんだから、動物愛護の立場か、食肉安全か、ひどい労働実態か、いずれにせよ大規模屠畜場を告発する「リベラルな」立場の人間だと思って、ウチザワに話を振ってくれたんだろう。そりゃアメリカのリベラルはそうなんだろう。でも日本じゃ殺生は穢れという陰惨な文化がひとねじり入っているから、そんな単純に「残酷」で「ひどいところ」なんて言えないんだよなー。ということを、ちゃんと説明できれば良かったんだが。

 このゼスチュア、ぼくもこれで覚えました。
 ということで、軽妙かつ洒脱に、「肉」を作り出していく現場の話が出るわけですが、圧巻なのは日本国内の豚・牛の屠畜現場とその周辺で、知的興味のある人は、今までほとんど本なんかには紹介されてこなかった特殊技術者(スペシャリスト・職人)の話と、工場化されていてどんどん流れ作業で解体を進めるその工程・手順が面白く読めると思います。絵(イラスト)入り、というのもわかりやすくて楽しい。
 去年のうちに読んでいたら、絶対「ベスト5」に入れていたと思うのですが、残念なことではありました。
2007年に読んで面白かった本ベスト5(ノンフィクションだけ)
 
(追記)著者のブログ、ありました。はてなダイアリーだ!
内澤旬子・空礫日記
 ブックマークのコメントで教えてくれたかた、どうもありがとうございます。

*1:もうはっきり言ってしまう。老人力のひとつ、老眼です