『虚構機関』----2007年のSFは星新一と非コミュの年だった

 こんな本を読みました。

虚構機関―年刊日本SF傑作選 (創元SF文庫)

虚構機関―年刊日本SF傑作選 (創元SF文庫)

一応収録作をコピペしてから何か言います。

小川一水「グラスハートが割れないように」
山本 弘「七パーセントのテンムー」
田中哲弥「羊山羊」
北國浩二「靄の中」
円城 塔「パリンプセストあるいは重ね書きされた八つの物語
中原昌也「声に出して読みたい名前」
岸本佐知子「ダース考 着ぐるみフォビア」
恩田 陸「忠告」
堀  晃「開封
かんべむさし「それは確かです」
萩尾望都「バースディ・ケーキ」
福永 信「いくさ 公転 星座から見た地球」
八杉将司「うつろなテレポーター」
平谷美樹「自己相似荘(フラクタルハウス)」
林 譲治「大使の孤独」
伊藤計劃The Indifference Engine

 2007年に出た日本SF短編から傑作をセレクトしてまとめた1冊。それを2008年末に出すのが東京創元社商法ですか。
 アンソロジーなので、面白いのもあればそうでないのもあった。まず雑誌その他の媒体に掲載された(その段階で別の人間の選考が入る)作品を、大森望日下三蔵の2氏が選んでいるのだから、これはまぁぼくの好みとは違っていても仕方ない。ただし、全然違っている(真逆である)と思えるのは福永信の作品ぐらいだったよ(好みではないとはいえ、作品的にダメ、とかいう意味ではありません)。
 しかし、扱っているネタがコミュニケーション(非コミュをテーマの底に持っている話が多いように感じるのは、時代のせいか、小説としての宿命なのか、少し考えさせられた。具体的には小川一水山本弘田中哲弥(これは微妙)、北國浩二林譲治
 さらに「SFテイストの混じった恋愛小説なんだけど、女性的存在について空想的・非現実的部分が多すぎる」と私的に感じられる作品が目立つのもどうなんでしょうね。具体的には小川一水山本弘田中哲弥(これはわざとか)、八杉将司。特に小川一水と八杉将司の女性的キャラには個人的に殺意を覚えるほど、SFではあまり会いたくないようなキャラだったのだった(でも普通の小説ファンには普通に読めると思うところがなんとも)。
 この短編集は、円城塔伊藤計劃がいなければ出せなかった、みたいなことを選者が言っておりますが、確かに円城塔の作品にはびっくりしたし(これはすごい)、伊藤計劃のはそのテーマ性が面白かった(多分もう何作か読んでみたい感じ)。でも2007年は星新一リスペクトの年だったのか、と読みながら思った。
 女性作家2人が、恋愛とか非コミュとか関係ないところで、バカ話をショート・ショートとしてまとめているのが、奇妙におかしかった。
 しかし、日本のSF短編って、こんなもんなんでしょうか。思った以上にそのセレクトの母数が小さい、というのは聞きましたが、中間小説(死語。今は普通に娯楽小説)誌やら文芸誌やら、ネットのステキサイトのステキエントリーとかで、面白そうなのはありそうな気がする。ジャンルSFがそもそも、商売として成り立つほどの市場ではなさそうなので(長編は別だろうけど)、逆に非商業的な奇想小説がありそうにも思えたのだった。北國浩二平谷美樹はメインの娯楽小説市場を意識しているような作品だったな。個人的にもっと他の作品を読みたくなったのは、林譲治伊藤計劃。特に林譲治は、こんなにSFらしい話が書ける人とは知らなかった。
 年末年始の暇な日に、せっせと読むには手ごろな厚さの1冊で、バラエティの面も含めてなかなか楽しめるのではないかと思った。お買い得、というには千円越えの値段はどうかと思うが、これも時代でありましょうか。