「前捌き」という演出方法について(黒澤明関連)

 毎日黒澤明手塚治虫の関連本を読む毎日です。二人が対談したテキストとかないかな? 手塚治虫黒澤明の映画見ていると思うけど、黒澤明手塚治虫の漫画読んでないと思うんで、クラシック音楽の話とかいいですかね。ブラームスなど
 二人の接点としては、手塚治虫原作の東映アニメ『西遊記』シナリオを書いたのが、黒澤明酔いどれ天使』『素晴らしき日曜日』のシナリオ書いた人と同じ植草圭之助黒澤明の小学校の時の同級生です。
 今日はこんな本を読みました。

私と黒澤明 複眼の映像 (文春文庫)

私と黒澤明 複眼の映像 (文春文庫)

 橋本忍って知ってますよね? ウィキペディアでも見ておいてください。日本のすごい脚本家(シナリオライター)です。
橋本忍 - Wikipedia
『複眼の映像-私と黒澤明-』は、映画『七人の侍』その他のシナリオがどのようにして共同執筆されたのか、また没になったその前のシナリオ『侍の一日』を橋本忍がどのように壮絶な覚悟で没にしたか、『隠し砦の三悪人』、旅館のカンヅメ(宿泊しながら執筆作業を集中しておこなう作業で、料理はけっこういいものが出てくるようであります)に飽きた(と思う)んで、菊島隆三・小國英雄・橋本忍黒澤明の4人が、それぞれ「故郷のうまいものを作って食べよう」という話とか、とにかく文章がうまくて、語られている内容が面白い絶品でありました。
 で、その中で菊島隆三のシナリオ執筆の「前捌き」の巧みさが取り上げられているんですが。そこにおけるその語の説明として。p271-272

 前捌きの上手さとは? なにがどのように上手いのか、専門用語過ぎるので、こういう形で表現すれば分かりやすいとも思う。
 例えば東映映画の任侠物で、兄弟分を殺られた高倉健が、死を賭けた最後の殴り込みで、敵地に乗り込んで行く。だがそれを途中で、藤(現・富司)純子が「待って!」と町並みから飛び出し取りすがる。「お願い!……行かないで!」
 私や黒澤さんはここで立ち往生だ高倉健の動きがつかない。ここで棒立ちのままじゃどうにもならないし、さりとて、藤純子を突き飛ばし駆け出す訳にもいかず、ニッチもサッチもいかなくなりドラマが止まってしまう。
 ところが東映の作品を書くライターは手慣れたものである藤純子高倉健に縋りつき離さず、泣き続けるが、暫くして「でもどんなに止めても、あなたは行くのだわ」といって涙を拭って離れ、
「じゃ、行ってよ……行って!」
「すまねぇ!」高倉健藤純子を片手拝みにし一気に走り出す。
 実に見事に捌けるのだ。

 …俺としては、例に挙がっているのでは、説明的になりすぎて、あまりいい例には思えないんで、例をいろいろ考える。
 えーと、とりあえずキスさせる、ってのは? アメリカの西部劇とかでありそう。でもそんなのは、ホモスキーな高倉健ファン女子とかリアルホモが許しません。
 こういうのはどうかな? 高倉健、感情を抑えきれないまま庭先の物干しにかけてあった六尺褌を外し、褌を洗い立てのものに締めなおす。で、今まで締めてたのを藤純子に渡して、「これ、洗っといてください」。
 …黒澤明映画の無駄なクドさ加減も(褌を締めなおすシーン演出で)多分出てきて、「いいね、蔵太くん、これだよ!」と黒澤明監督から肩叩かれそうなレベル。いろいろな意味での健さんファンもこれなら大満足だ。
 ということで、何か渡す、というのはありますね。
 こういうのはどうかな? ジャージ(高鴨穏乃)を殺られたお姉ちゃん(松実宥)が、死を賭けた最後の殴り込みで、敵地に乗り込んで行く(敵地は清澄組で、若頭は魔王です)。だがそれを途中で、ドラゴンロード(松実玄)が「待って!」と町並みから飛び出し取りすがる。「お願い!……行かないで!」。お姉ちゃんは妹にマフラー渡す。「今まで…ありがとう…」
 …ごめん、なんか涙出てきちゃった。嘘設定・嘘展開なのに。咲の野郎、ぶっ殺す!
 それはともかく、「何か渡す」ってのは、ガンダムとかマクロスとかフルメタル・パニックとかにありそうだね! 探して見つかったら俺に教えてくれ。
 あと、そうだな、えーと、クシャミさせるとか?
健「ひっきしっ!(くしゃみ)」 上から金盥落ちてくる。
 笑っちゃうとか?
健「……ぶっ(笑)…ご、ごめん!」
監督「NG!」
助監督「はいNGでーす」
純子「やだー、もう、健さんったら!(大笑)」
 このNGカットは最後のスタッフロールで使います