ナベツネの「たかが選手」発言はどのようにして出てきたのか

JANJANの以下の記事に関連して、少し調べてみました。
↓決戦―新旧メディア攻防を追う(中)―「たかが一個人、されどメディア」
http://www.janjan.jp/media/0410/0410109611/1.php

 デジタルアライアンス側の勝訴でサービスが続行可能になった。世界のネット業界のニュースを配信するH O T W I R E D  J A P A N上のブログ(注)、佐々木俊尚のITジャーナルで佐々木氏はこの出来事を取り上げた。

 同ブログによると、デジタルアライアンスと読売新聞の裁判について取材を申し込んだが、読売新聞に直接取材は断られたという。私はこの記事を見て読売前オーナー、渡辺恒雄氏の「たかが選手」発言をすぐに連想した。

 「うちの会社はね、フリーライターみたいな権威のない一個人には正式回答は行わない、っていうスタンスなんだよ。いや佐々木さんのことをバカにしてるっていうわけじゃないんだけどね、そういう基本方針なの」

 とブログで佐々木氏は読売新聞の体質を関係者の話として紹介している。

ここに出てきている「佐々木俊尚のITジャーナル」のテキストは以下のところ。
↓新聞社はダブルスタンダードがお好き?
http://blog.goo.ne.jp/hwj-sasaki/e/a38a7f28d357111642cbafbda1789ace

こちらのテキスト中の「読売社内のある関係者」の話というのは、どこまで本当なのか確認ができないのですが(こういう「確認の取れない情報」で、自分サイドに都合のよさそうなものをさりげなく混ぜる手法が、どうもブログでインターネットなジャーナリズムに対応していないような気もしますが、それはさておき)、JANJANの記者は記事の中で「私はこの記事を見て読売前オーナー、渡辺恒雄氏の「たかが選手」発言をすぐに連想した」と書いていました。元の佐々木俊尚さんのテキストには、ナベツネのナの字もないんですが。まぁそれもさておき。

googleで「たかが選手」を検索
http://www.google.co.jp/search?sourceid=navclient&hl=ja&ie=UTF-8&q=%E3%81%9F%E3%81%8B%E3%81%8C%E9%81%B8%E6%89%8B

個人サイト(ブログ)も含めて山のようにひっかかります。記事としてはだいたいこんな感じ。

↓10日選手総会でスト決定か(スポニチアネックス)
http://www.sponichi.co.jp/baseball/kiji/2004/07/09/01.html

 この日、選手会の古田会長が「開かれた感じがしていいんじゃないですか」とオーナーとの直接会談を間接的に求めたことについては「ふっふっ。無礼なこと言うな。度をわきまえにゃいかんよ、無礼な。たかが選手が。たかが選手といっても立派な選手もいるけどね。まあ、オーナーとね、対等に話す協約上の根拠は1つもない」と即座に一蹴。今後も選手会に対し、一歩も譲歩しない構えだ。

↓「話をしたい」という古田に、渡辺オーナーが「無礼な」(朝日コム)
http://www.asahi.com/special/baseballteam/TKY200407080343.html

 労組日本プロ野球選手会の古田会長(ヤ)は8日、合併や球界再編などでの球団側との話し合いについて「オーナーたちと話をしたいという気持ちはある。その方が(議論が)開かれた感じがしていいのではないか」と話した。これまで、労使交渉の窓口は各球団代表クラスになっている。

 発言について、8日夜に報道陣から質問された巨人の渡辺オーナーは「無礼なことを言うな。分をわきまえないといかん。たかが選手が。立派な選手もいるけど。オーナーと対等に話をする協約上の根拠はひとつもない」と切り捨てた。

(07/08 21:55)

選手会スト決定・対等前提に話し合いを(琉球新報・社説)
http://www.ryukyushimpo.co.jp/shasetu/sha28/s040908.html

 まず、両球団の合併に向けた協議が行われているさなか、古田選手会長が経営側と直接意見交換したいと希望した。その際、巨人の渡辺恒雄前オーナーが「無礼なことを言うな。分をわきまえなきゃいかんよ。たかが選手が。オーナーと対等に話をする協約上の根拠は一つもない」と言い放った。

↓103日の攻防:プロ野球・球界再編/1 「1リーグ制」消滅(毎日新聞
http://www.mainichi-msn.co.jp/sports/pro/archive/news/2004/09/25/20040925ddm035070012000c.html

 「たかが選手」発言がきっかけだった。7月8日夜、渡辺前オーナーは待ち構えた記者に「(選手会の)古田会長がオーナーと会いたいと言っている」と水を向けられると、「無礼なことを言うな、たかが選手が。立派な選手もいるが、オーナーと対等に話をする協約上の根拠は一つもない」と言い放った。

 翌日から、世論の猛反発が渡辺前オーナーを襲った。大阪市内で開かれた選手会意見交換会ではストライキを検討する意見が浮上し、連合の笹森清会長も「看過できず、怒りを禁じえない」と発言するなど「渡辺包囲網」が敷かれ始めた。読売新聞社には抗議電話がかかった。

 失言以来、渡辺前オーナーが夜回り取材に応じることはほとんどなくなった。「君たちの中には新聞記者じゃないのが紛れ込んでいる。身の危険を感じるから、君たちとは一切話さない」とただならぬ空気を漂わせたこともあった。たった一言で、球界再編の流れは変わった。

もう3か月以上も前のことですか。あれこれ報道を読む限りでは、巨人の渡辺オーナーが「たかが選手が」って言ったことはまず間違いのないことでしょう(そのあとで「立派な選手もいるけど」とも言っているみたいですが)。

しかしそのあとで驚愕の証言がナベツネの口からあったらしいです。毎日新聞の記事の続きです。

 失言から約2カ月後、渡辺前オーナーは毎日新聞の取材に「あれ(たかが選手発言)は瞬発的な反応。古田君はそんなことは言っていなかった。あの時の質問をした記者はけしからん」と弁明した。歯がみして悔しがる姿から、改めて失言の重さをうかがい知ることが出来た。

うわぁ。ナベツネさん、「待ち構えた記者」の質問にはめられてましたか。「歯がみして悔しがる姿」という毎日新聞の記者はそれを楽しそうに表現しています。
で、記事の中の古田選手の発言に関する部分を拾ってみると、こんな感じ。


「開かれた感じがしていいんじゃないですか」(スポニチアネックス)
「オーナーたちと話をしたいという気持ちはある。その方が(議論が)開かれた感じがしていいのではないか」(朝日新聞


↓その他、「開かれた感じがして 古田」をgoogleで検索
http://www.google.co.jp/search?sourceid=navclient&hl=ja&ie=UTF-8&q=%E9%96%8B%E3%81%8B%E3%82%8C%E3%81%9F%E6%84%9F%E3%81%98%E3%81%8C%E3%81%97%E3%81%A6%E3%80%80%E5%8F%A4%E7%94%B0

どの記者か知らないですが、毎日新聞の記事中にある「(選手会の)古田会長がオーナーと会いたいと言っている」と渡辺オーナーに言った記者は、古田会長の「気持ち」を正確には伝えていないように、俺には思えました。まぁ結果的には面白い記事ができて、新聞的にはオーケーなんでしょうけどね。しかしそれ以来、「夜回り取材」に応じなくなってしまった渡辺オーナーには、「神の国」発言以来記者には何も答えなくなってしまった森前総理と通じるものがあります。要するに「少しかわいそう」というのが俺の気持ちです。教訓としては、

記者に「○○さんが××と言っていますが、この件に関して何か」と聞かれた要人は、「事実の確認をしていないのでコメントできない」と答えるだけでいい(答えなければならない)。

ということでしょうか。

「『たかが選手』なんていうナベツネ、ひどーい、ありえなーい」と、女子高生みたいな感じ? でこの渡辺オーナーの発言を問題にするのもいいんですが(俺自身も、渡辺オーナーの発言内容そのものにはかなり問題はあると思います。←ここ重要なのでよろしく)、その発言を引き出した記者の記者魂のほうに、俺は既存マスコミ・ジャーナリズムのダメな点を見てしまうのでした。記者が実際には古田選手が言ってもいないことを言ったといい、渡辺オーナーの楽しいコメントが引き出せたのは、マスコミとしては「得点1」でしょうが、渡辺オーナーが以後、記者を相手にしなくなった(記者を信用しなくなった)こと、およびこの出来事がなかったらありえたかもしれない「オーナーと選手の話し合い」(ちゃんと段取りを踏まえれば可能性はあったと思います)および「ストの完全な回避」という円満な解決が不可能になった自体を招いた、という意味では「失点10」ぐらいしているかな、という感じです。

まぁ、いずれにしても新聞による二次情報なんで、本当はどうなのか今イチ不明なんですけどね。とりあえず「人と違うブログ(日記)のネタ」を集めるには、古新聞や古テキストを掘り返して「本当はどうだったのか」みたいなことをやってみると面白いかもしれません。