「沖縄の米軍基地面積より北海道のほうが多い」というのは本当か
「産経新聞那覇支局長」の人がこんなことを言っていたので、ちょっと興味を持ちました。
→改めて「75%問題」について-今夜も、さーふーふー:イザ!(2006/09/23)
最新の基地問題の単行本にも「沖縄には米軍基地の75%が集中」との記述を見つけました。産経新聞の記者のいうことなど信用できない、という疑い深い人のために、沖縄県の資料を提示しておきます。
沖縄県基地対策課が出している「沖縄県の米軍基地」(平成15年版)。700ページを超える膨大な基本資料です。この11ページ目にこうあります。
「在沖米軍基地は全国に所在する米軍基地面積の23・5%に相当し、北海道の34・1%に次いで大きな面積を占めている」
このあと専用施設に限れば74・7%が本県に集中していると続きます。
基地負担を主張するのならば、堂々と「沖縄には23・5%もある。多すぎるのではないか!」と言っても、十分、説得力はあると思うのです。
このテキストを書いた「小山裕士」さんは、「沖縄に米軍基地が75%もあるなんて大嘘!」というのが自論らしく、それ関係のエントリーを何度も書いているわけです。
→沖縄に在日米軍基地の75%があるなんてウソ!-今夜も、さーふーふー:イザ!(2006/09/02)
75%というのは「米軍専用施設」の割合です。つまり、自衛隊も使う佐世保とか三沢とか岩国などを除いた数字なのです。これらを含めた米軍施設でいえば、沖縄の割合は23・5%です。(それでも十分多いじゃないかという主張もありますが、それなら、なぜ75%を強調してきたのかの説明が必要でしょう)
→米軍基地の面積も沖縄は1位じゃない!-今夜も、さーふーふー:イザ!(2006/09/03)
「75%」問題に付け加えます。この誤ったイメージのため、当然、在日米軍基地の面積も沖縄が一番多いと思われがちですが、これも違います。
「都道府県別米軍施設の面積ランキング」を調べました。1位は北海道で、3万4463㌶。沖縄は2位で、2万3671㌶です。以下、静岡、大分、山梨と続きます。東京も12位に位置しています。
念のため、2位であっても沖縄の基地負担が異常に大きいことは十分認識しています。当方の願いは、討論などの場で、「75%」などの意図的な数字にひきずられて、ミスリードにつながらないこと。正確なデータを知ったうえで、冷静な議論を進めてほしいというだけです。
惜しい。
「北海道の3万4463ヘクタール」の具体的な内容を見て言及しないと、これもまたミスリード。
これについては、あとでもう少しくわしく述べますが、一応小山裕士さんの「基地」関係のテキストは以下のところから読めることになっています。
→今夜も、さーふーふー-小山裕士:イザ!
ちなみに、東京都の公式サイトでもこんな数字があります。
→全国の米軍基地
都道県(27都道県) 基地の面積(千㎡) 北海道 344,634 沖縄県 236,812
新聞記者と東京都が言うことだから、普通の人は「沖縄の野郎、よくもだましやがったな!」と、この数字を信じてしまうかもしれませんが、前にも太字で示してあるとおり、その数字は「米軍専用施設」ではありません。
防衛庁が発行している「防衛白書」の数字としては、こんな感じです。
→2 沖縄に所在する在日米軍施設・区域
以上のような取り組みの結果、沖縄復帰時に83施設、約278km2であった在日米軍施設・区域(専用施設)は、本年1月現在、36施設、約233km2となっている。しかしながら、依然、面積にして在日米軍施設・区域(専用施設)の約75%が沖縄県に集中し、県面積の約10%、沖縄本島の約18%を占めている状況となっている。
→防衛施設庁:在日米軍施設・区域(専用施設)面積
→防衛施設庁:在日米軍施設・区域(専用施設)都道府県別面積
順位 都道府県名 面積 全体面積に占める割合 1 沖縄県 233,018千㎡ 74.64% 7 北海道 4,274 千㎡ 1.37%
なんで「専用施設」ではなく「一時利用(共用)施設」の数字でパーセントを語らなければならない人・組織がいるのか不明ですが、こんなところのブログから。
→OPAC・沖縄平和協力センター:在日米軍基地問題について
沖縄県はその面積2,272平方㎞の中に、約133万人の人口を抱えています。
その中で本島は長さ約100㎞、幅約20㎞の島です。
那覇市には約30万人が住んでおります。
一年を通して暖かく、異国情緒のあふれる、観光県になります。
さて、基地についてです。
沖縄県は在日米軍基地の約75%を負担してます。
県土面積の約10%が基地になってます。
以上はよく指摘される点です。
これは決して間違いではないのですが、注意の必要なところです。
実は在日米軍基地は、専用施設と一時使用施設に分かれます。
これらを併せて考えると、沖縄が負担している割合は23%になります。
以上の仕組みの説明については、また次回。
専用施設と一時使用施設という2種類の基地。
これらの法的な区別は、日米地位協定の2条にあります。
詳しく知りたい方はそちらをご参照。
さて、それでは両者を誤解を恐れず簡単に言うと、
専用施設(2条1項)…そのまま米軍の基地
一時使用施設(2条4項)…自衛隊との共用
となります。
一時使用施設は米軍と自衛隊の共用です。
共用できるのはどのような施設か。
となると、それは演習場であったりします。
そこで年間を通じた中での米軍の使用という点。
すると、演習場だと実際の使用は僅かなものです。
あくまで演習場ですし。
米軍の部隊はそこに常駐してませんし。
一応、「日米地位協定」は、以下のところで見ることができます。
→本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する条約上、条約第七号、効力発生 一九六〇年六月二三日
第二条
1 (a) 合衆国は、相互協力及び安全保障条約第六条の規定に基づき、日本国内の施設及び区域の使用を許される。個個の施設及び区域に関する協定は、第二十五条に定める合同委員会を通じて両政府が締結しなければならない。「施設及び区域」には、当該施設及び区域の運営に必要な現存の設備、備品及び定着物を含む。
(b) 合衆国が日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の終了の時に使用している施設及び区域は、両政府が(a)の規定に従って合意した施設及び区域とみなす。
(中略)
4 (a) 合衆国軍隊が施設及び区域を一時的に使用していないときは、日本国政府は、臨時にそのような施設及び区域をみずから使用し、又は日本国民に使用させることができる。ただし、この使用が、合衆国軍隊による当該施設及び区域の正規の使用の目的にとって有害でないことが合同委員会を通じて両政府間に合意された場合に限る。
(b) 合衆国軍隊が一定の期間を限って使用すべき施設及び区域に関しては、合同委員会は、当該施設及び区域に関する協定中に、適用があるこの協定の規定の範囲を明記しなければならない。
で、ここで注意しないといけないのは、「2条4項」にも(a)と(b)があって、(b)は「米軍基地」というよりは「米軍も使用することができる自衛隊の基地」だ、ってことです。
で、それはどういうものかというと、以下のところを見るとわかります。
→米軍と自衛隊が共同使用している防衛施設(pdf)
「地位協定2-4-(a)関係」に属している施設は、北海道では「キャンプ千歳」だけなんですが、「地位協定2-4-(b)関係」だと、「東千歳駐屯地」「北海道大演習場」「別海矢臼別大演習場」など、ものすごい面積のものがあるわけです。
→北海道大演習場 - Wikipedia
総面積9600ha
総面積約16,800ha
沖縄の基地の面積は、以下のところで示したとおり、
→全国の米軍基地
236,812千㎡=23,681.2ヘクタール。
北海道の演習場2つを、「たまに米軍が使用するから」という理由で「米軍基地」ということにすると、それだけで沖縄の基地面積越えちゃうんですが。
ちなみに使われ具合は、「日米合同訓練」以外には発見できなかったんですが、こんな感じ。
→平成15年版 防衛白書 資料30 日米共同訓練の実績(平成16年度)
平成15年北海道では「東千歳駐屯地」で2回だけやっていますね。米軍単独の使用があったのかは不明(誰か調べられる人は調べて教えてくだだい)
まぁ、現在のところ北海道にある米軍施設(米軍基地?)は、「キャンプ千歳」の「4,274 千㎡(427.4ヘクタール)」ぐらいで、それも基地と言えるかどうか、です。
→キャンプ千歳 - Wikipedia
キャンプ千歳(きゃんぷちとせ)は、北海道千歳市柏台に所在するアメリカ陸軍の通信所である。現在はまったく使用されていないが、広大な跡地が遊休地化した在日米軍施設として残存している。
1970年には通信所が閉鎖、1975年には最後に残されたOTHレーダー基地も閉鎖され、これによりキャンプ千歳からアメリカ軍は完全に撤退した。しかし、完全撤退の前年の1971年に「キャンプ千歳の共同使用等に関する日米政府間協定」が締結されたため、キャンプ千歳の残存敷地は、閉鎖後もアメリカ軍への提供施設のまま温存され、遊休地化された。
→防衛施設庁:在日米軍施設・区域(専用施設)一覧
だから、「北海道には、実は沖縄以上にでっかい米軍基地がある」とか思うのは妄想、それを口に出すのは「知らないことが多すぎる人」という公言、です。
意地が悪い人とか、ぼくが機嫌が悪いときだったら、そんなことを言う人は「へぇ、それは知りませんでした。具体的に、北海道には何という名前の米軍基地があるんですか?」と聞かれるかも知れず。
沖縄県の人でも、ちゃんとした人・組織は、以下のように必ず言うようにしているみたいです。
産経新聞記者・小山裕士さんが「沖縄県基地対策課が出している「沖縄県の米軍基地」(平成15年版)」という形で言及していた、沖縄県基地対策課にはこんなテキストがあったし、
→沖縄県
しかし、全国の米軍専用施設面積の約75%が沖縄県に集中し、県民生活や振興開発に様々な影響を与えていることから、多くの県民は基地の整理縮小を求めています。
2006年防衛白書では以下のように言っていたり、なのです。
→2 沖縄に所在する在日米軍施設・区域
以上のような取り組みの結果、沖縄復帰時に83施設、約278km2であった在日米軍施設・区域(専用施設)は、本年1月現在、36施設、約233km2となっている。しかしながら、依然、面積にして在日米軍施設・区域(専用施設)の約75%が沖縄県に集中し、県面積の約10%、沖縄本島の約18%を占めている状況となっている。
ということで、あまり意味のない東京都の「全国の米軍基地」よりは、以下のところのほうが参考になると思います。
→県別米軍基地面積(長崎の人が作ったので、長崎のところだけ色が違います)
あと、せっかく調べたので、「自衛隊の基地の面積」についても少し言及を。
→(1)防衛施設をめぐる諸問題と各種施策への取組(pdf・2003年防衛白書)
防衛施設の用途は、演習場、飛行場、港湾、営舎など多岐にわたる。防衛施設の土地面積は、本年1月1日現在、約1,397km2であり、国土面積の約0.37%を占める。このうち、自衛隊施設の土地面積は約1,080km2であり、その約42%が北海道に所在する。また、用途別では、演習場が全体の約75%を占める。一方、在日米軍施設・区域(専用施設)の土地面積は約313km2であり、このうち約37km2は、地位協定により、自衛隊が共同使用している。
米軍専用施設が300平方キロぐらいなので、ざっとその4.5倍ですか。
まとめると、こんな感じです。
1・「沖縄に在日米軍基地の75%がある」と言っている人は、「沖縄に在日米軍専用基地(施設)の75%がある」と必ず言うようにしないと、沖縄の人が嫌いで、半端に知識があるフリをしたがる人につっこまれる可能性があるので注意が必要。
2・「沖縄に在日米軍基地の75%があるなんてウソ」と言っている人の中には、「日米地位協定」を読んだこともなければ、その協定に基づいてどの基地がどのように使われているか知らない人もいるかもしれない。
3・産経新聞那覇支局長・小山裕士さんには、もう少し調べて欲しかった。
4・北海道はでっかい。でっかい矢臼別大演習場。
(2006年10月1日記述)
別に朝起きたらぼくの機嫌が悪くなったわけではありませんが、「そんなことも知られてないんですね」「知らなかったです」的な、小山裕士さんのところのコメントに違和感を感じたので、「今夜も、さーふーふー」の、以下の2つのエントリーに、本当に何か月ぶりぐらいなんですがトラックバックというものをしてみました。
→米軍基地の面積も沖縄は1位じゃない!-今夜も、さーふーふー:イザ!
→もううんざりの「75%」(追記:こちらのほうのトラックバックは消されてました)
(2006年10月1日記述)
(追記)
「今夜も、さーふーふー-小山裕士:イザ!」の人のコメント欄から。
2006/10/01 12:58
Commented by 小山裕士
遊休施設というのは沖縄にもありますし、北海道の方が沖縄より多いという結論には何の問題もないでしょう。というより、沖縄県自らが認めていることですから。数字の背景を知ってもらうのは結構なことだと思います。何度も書いてますが、だから沖縄の基地負担はたいしたことはないなどと、言ったことは一度もありません。
2006/10/01 13:11
Commented by 小山裕士
ネット上で当方が揶揄されているようですが、それほどの大物でもありませんので、もっと他の方にエネルギーを使ってほしいものです。きりがないのですが、これまで沖縄の基地負担を軽視したことはありません。地元紙が基地報道を重視するのはいいのですが、連日これが続くのでは気が重いです。
いや別に、小山裕士さんが大物とか小物とかはどうでもいいので(まぁ普通「○○ともあろう者が」と言われる可能性のある人が「小物」だとは思えないんですが)、それに「沖縄の遊休地」とかもどうでもいいので、
1・それで北海道には、具体的には何というでっかい米軍基地(施設)があるんですか。
2・北海道にあるという「米軍基地」について、ぼくが言っていることは分かりましたか。
3・今後も小山裕士さんは「米軍基地の面積も沖縄は1位じゃない!」と言い続けるわけですか。
なのです。
せっかく沖縄にお住まいなので、沖縄の「遊休施設」について、記者としてでしか入手できないような情報を提供していただけると、いろいろな人が喜ぶと思いますよ。「こんなに遊休施設があるのに返還しないとは!」というようなテキストが、事実にもとづいて書かれるなら、「さすが○○さん」と言われるような気がします。しょせん本(資料)やネットで調べた知識・情報などを元に何かを言うことなんて、ぼくの小物ぶりを披露しているようなものです。
(2006年10月1日記述)