J.G.バラードと健忘症(アムネジア)
J.G.バラードが「SF小説SF」について語った、最も有名なフレーズは、多分これ。
→J・G・バラード - Wikipedia
バラードの有名な宣言に「真のSF小説の第一号は、健忘症の男が浜辺に寝ころんで、錆びた自転車の車輪を見つめつつ、両者の関係性の究極的な本質をつきとめようとする、そんな物語になるはずだ。」という文章がある。
翻訳は伊藤典夫の「内宇宙への道はどれか?」(季刊NW-SF No.1、1970年)のが一番有名っぽいんだけど、「内宇宙への道はどちらか?」というタイトルで、S・Fマガジンの1997年3月号に訳し直されてるっぽい(未確認)。原題は「Which Way to Inner Space ?」なので、「どちらか」のほうが多分正しいと思う。
現在テキストとして入手しやすいのは、『J・G・バラードの千年王国ユーザーズガイド』(木原善彦・訳、白揚社)の単行本のほうか。
そこでは当該箇所は以下のように訳されている様子。
真のSF小説の第一号は----誰も書かなければ私自身が書こうと思うのだが----記憶を失った男が浜辺に横たわり、錆びた自転車の車輪を見つめ、その車輪と自分との関係のなかにある絶対的本質をつかもうとする。そんな物語になるはずだ。
記憶を失った男?
なんか「健忘症」よりこの訳のほうがバラードっぽいかも。
ということで、ネットで元テキストを探してみたんだけど、「Which Way to Inner Space ?」の全文テキストは見つからなかった。問題の箇所だけ拾ってみたよ。
→Assassination Weapon
The first true s-f story, and one I intend to write myself if no one else will, is about a man with amnesia lying on a beach and looking at a rusty bicycle wheel, trying to work out the absolute essence of the relationship between them.
ということで、「a man with amnesia」の翻訳次第。
本日の画像は、元テキストが掲載された「NEW WORLDS」誌1962年5月号。ついでに見つけてみた。日本でも持っている人は、山野浩一・伊藤典夫・牧眞司以外に4人ぐらいはいそうな気がする。
これは以下の日記に続きます。
→J.G.バラード「内宇宙への道はどちらか?」(伊藤典夫訳)とその感想