なぜ舞台・映画・アニメのキャラクターは「右から左」へ動くの?
富野由悠季『映像の法則―ビギナーからプロまでのコンテ主義』から。p55
当たり前の感覚でいえば、上に見えるものは大きいし、“上位のもの”と感じることもできます。上からくる(見えてくる)ものは“強いもの”とも感じられます。
下からのものは、その逆の印象づけをしてくれます。
それと同じようなことで、右と左ではどちらが“上か下か?”という問題も、先に書いたように、右に見えるものが上位で、左に見えるものが下位となります。
強いものは、右から出てきますし、右から左に動いているように展開されたほうが正確につたわります。同時に、自然な流れ、当たり前の流れに見えますし、左から右に動くものよりも、短い時間間隔でとらえられます。
いろいろな演出方法として「右から左が自然」ということになっているようですが(ゲームはちょっと不明)、
→演出のルールを知るとアニメはもっと楽しくなる!! - アニメな日々、漫画な月日
→とある科学の超電磁砲 OPの演出の解説 一貫性のある正負の方向 - karimikarimi
→ゲームの右と左 マリオはなぜ右を向いているのか - 最終防衛ライン2
→物語の進行方向について(日本漫画のメリットとか):島国大和のド畜生
もっと単純に考えてもいいのでは、というのがぼくの今日の考え。
映画の場合。
→イージーライダー「ワイルドで行こう」 - YouTube
多分バイクで走る映画としては世界一有名な映画だと思うけど、冒頭、バイクは右から左へ走ってますよね? これ、強いから? ぼくの考えでは、車は右側通行のアメリカでは、カメラがそっちのほうに置きやすかったから。バイクが左走って、カメラが右側から撮ったら、道路交通法(ってアメリカにあるかしらないけど)違反になっちゃう。
で、最後のほう、モーテルに泊まろうと思って日の暮れた道を走る二人のバイクは左から右へ走ってますよね? これはモーテルに意味を持たせたかったからかな?
ネットで見られるかどうか不明なんですが、このあとこの二人は何回か左から右へと走りますが、それはたとえば、
・明らかに左側走ってる(交通違反かどうかは不明)
・林の中の子供の視線
・カメラ道路わきに固定で、道路の進行方向左側にあるガソリンスタンドに寄る二人を撮る
などがあります。その他どういう場面でも、まあだいたいカメラの都合だと考えていれば間違いない。
日本で「バイクに乗ってる人」を撮ろうとすると、「左から右」の向きになります。そのほうが景色が普通に見える。
こんな感じ。
→Sportster xl1200l Female rider encounter - YouTube
日本映画だと、車は左側通行なんで、左から右へ走るのがほとんどのはず。そのほうが撮りやすいから。
同じ理由で、電車だと東海道線の上りは左から右、下りは右から左へ流れる(追記:よく考えたら上り・下りとも左側通行の路線外から撮るんで「右から左」だった。上りは海が背景、下りは山が背景)。
具体的な例を探そうと思って黒澤明『天国と地獄』見たら、下りの「特急こだま」が左から右へ走っていて驚いた。えーと…そのあと、河原に残された子供を助けに刑事さんたちが土手を、左から右へ走る車で助けに行きます。
→【とある科学の超電磁砲】 -OP fripSide only my railgun 歌詞付き - YouTube
電車の「右から左」移動は、これ、舞台が東京の西側なんで、西から東(上り)ですかね? 太陽を正面にしてる。映画ではあまりそういう撮り方しないと思うけど。で、美琴の太陽の当たり具合だと、上り電車の南側の窓。対向電車来たらどうするのかは不明です。
ちなみに新opだと、車が左走行→カーブを右側に走行車線越えてストップ→(左ハンドルの車の)右側の助手席に座っていた女の子が降りる、という、実写でやったらいろいろ問題になりそうなことやってます。
多分たいていの日本のアニメでは、人は(右側通行なんで)道を歩いている絵は右から左へ動きますですな。そこまで実写的風景にこだわらなくてもいいと思うんだけれど、人間の目はそれに慣れてるのかな? 多分『映画 けいおん!』もイギリス右側通行なんで、日本と同じセンスで撮ってた気がする。
車が右から左へ動く日本の例もないことはないです。車で送り迎えされているお嬢様が、校門の前で車から降りるシーン(お嬢様は後部座席)。
もうちょっと分かりやすいところだと、『魔法少女まどか☆マギカ』の1話とかどうかな? 冒頭、夢の中でまどかが右から左へ進むのは、多分右が手前で左が奥、という人間の感覚があるからだと思うけど、ほのかが教室に入って来るシーンはなぜ右から左かというと、多分たいていの教室は向かって右に出入り口があるんで、左から右のシーンを描くと教室の人たちを描かなければならない(黒板上にカメラを置く感覚)んで面倒くさいからとか? まあその後、保健室に二人が行くシーンでは、右から左へ動くまどか・ほのかを見ている学校の人たち写してますですが…。
→映画「陸軍」 ラストシーン - YouTube
日本映画史上屈指の名場面だと私的には思っている、木下恵介の映画『陸軍』ラストシーンです。注目したいのは5分以降の人の動き。軍隊の行進は基本右→左なんで、それを見ている群集&田中絹代の動きは左から右になるんですけど、これ、別に田中絹代が右から左へ動く絵でもよくね? とか思いませんか。ぼくは単純に、自然光の関係でカメラが太陽を背にして田中絹代を撮りたいから(顔の影が彼女に出ないようにしたいから)と思ったんですが、違うですかね? その前の、橋のほうへ走っていく田中絹代&群集は、右から左へ走ってます。
要するに、実写撮影の「右から左」「左から右」ってのは撮影上の都合というのが、演出と同じぐらいあるのでは? という話。アニメの場合だって、左から右へ動かすときには「路上」ではなく「歩道上の、より道路より遠い側」を撮るのは、画面的に面倒な上にあまり意味がないからかも。
とりあえず、「左から右」への場面としては、どの程度有名か不明ですが、同じ木下恵介『二十四の瞳』の、高松港の堤防沿いの道を泣きながら歩く少女の演出を推しておきたいです。みんな見て! 左側通行だけど。
で、舞台の話なんだけど(ここまでは序論です)。
当然のことながら、映画・アニメより以前に芝居というものがあって、西洋には「上手(かみて)」「下手(しもて)」の概念があり、西洋演劇と共に日本にもその作劇術が伝わってきたわけですが、日本古来の芝居にはそんなものはありません。ほとんどの演劇において、役者は左から出て右に座ったり、右側にある舞台で芝居する。能においては「橋懸り」という奴ですかね?
参考動画。
→勧進帳 - YouTube
西洋だとこんな感じ? もっといい例があるかな?
→新国立劇場バレエ 3分でわかる白鳥の湖 - YouTube
なんでそうなったか、つまり「上手」「下手」ができたかというと…座席の右側の人(舞台から見て左側の人)によりよく見てもらいたいため。なぜそうかというと、右側の人のほうが左側の人よりえらいから。
なんで右側の人のほうがえらいかというと、多分戦争と関係がある。攻めるときは必ず右側から攻める。右側に大将いないと駄目だよね? で、敵のほうは向かって左から攻めてくるんで、巴形になったり(昔の戦争の場合です)。
適当にまとめると、
1・芝居の右側が上手なのは、えらい人に見せるため
2・映画で右から左に流すのは、多分撮影都合上の問題
3・アニメも多分手間暇の問題。あと映画に目が慣れている人のため
4・右が手前、左が奥に感じられるのは、人間の心理的にあるかもしれない
(ただし例外はいくらでもあると思う)
『魔法少女まどか☆マギカ』に限らないけど、戦闘シーンのあるアニメ、どっち向きで戦っているか考えながら見ると面白いかもです。あと西部劇。
- 作者: 富野由悠季
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なお、なぜグランドピアノが下手に置かれるかというと、フタの向き考えてみるといいですね。逆向きだとうまく響かないだろ! なんでグランドピアノの右側が開くかというと…左側開けるようにするのは大変だから!
これは以下のメモに続きます。
→アニメ『氷菓』を舞台化するなら、古典部の部室はこうするしかない(opの絵はおかしい)
→なんで敵は「右」から来るの?